エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
皆からの祝福を受け頭を下げる拓海に、部下思いの部長もとてもうれしそうだ。

「そんなうれしいことを言われると、なにかご褒美をあげたくなるな。『給料上げてくれ』以外で、なにか希望はあるか?」

 上機嫌の部長が大きくでた。

 冗談半分の問いに、拓海も冗談で返すだろう。日菜子はそう思っていた。

「給料以外ですか……それ一番お願いしたいところなんですが」

 部長と拓海との掛け合いに、周囲から笑いが起る。

 しかし拓海は次の瞬間、驚くべきことを口にした。

「そうだ。松風を俺にください」

「えっ?」

 急に自分の名前が出て驚く。

(まさか、嘘でしょ? それこそ何かの冗談よね?)

「なんだ、どうした?」

 予想外の申し出に、部長も面を食らったようだ。

 しかし拓海はもう一度部長に向かってはっきり言った。

「松風を俺のアシスタントにつけてください」

 拓海の視線が日菜子に移ると同時に、周囲の視線も彼女に向けられた。

 注目を集めた日菜子は、どうしたらいいのか分からず顔を赤くする。

 しかし拓海は一歩も引く気がないようだ。彼の態度が本気であるということが、部長に伝わった。

「そうか、松風か……」

 部長が日菜子を窺うようにして見た。真っ赤な顔で必死になって首を左右に振り、断ってくれとアピールする。

 しかしそれに気がついたのか、拓海が部長に不満を漏らす。

「部長、給料以外は何でもいいって言ったじゃないですか?」

 何でもとは言っていないはずだ。日菜子は祈るようにして部長を見つめた。

しっかりと目が合っていたのに、すっと逸らされる。

 この瞬間、日菜子はがっくりと肩を落とした。

「わかった。ちょっと考えてみる。いいか、それで?」

「ええ、松風が俺の担当になるなら。彼女と一度がっつりと仕事をしてみたかったんです」

 ああ、どうしてこんなことになってしまったのか。

 資料室で拓海が宣言した「俺の言うことを何でも聞くこと」というセリフがリフレインされる。

 もしかしてのもすごくこき使われ、理不尽な要求をされるのではないか。

 最悪の状況しか思いつかず絶望する。

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