エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
「美穂(みほ)ぉ~ハイボールちょうだい」
「ないわよ。うち喫茶店よ」
座るなり、カウンターに倒れ込んだ日菜子に美穂はグラスの水を差し出した。
「で、何飲むの?」
「カフェラテ。かわいいラテアート希望」
「はいはい。っていうか、もう閉店時間過ぎてるんだけど」
ブツブツ文句を言いながらも、リクエストに応えてくれる。
「あと、ナポリタン」
「はぁ? 別に作れなくはないけど、こんな時間に食べたら太るよ」
すでに時間は二十一時を過ぎている。こんな時間に炭水化物は危険極まりない。
「やめとく。だからとびきり美味しいカフェラテお願い」
「しばらくお待ち下さい、お客様」
馬鹿丁寧に頭を下げた美穂が、カウンターの中でエスプレッソマシンの前に立つ。
ここ『わかば珈琲』は、美穂のおじの喫茶店だ。
町田(まちだ)美穂は、日菜子の小学校からの親友だ。
高校卒業後の進路こそは別れてしまい日菜子は大学を出て就職し、美穂は製菓の専門学校を卒業後、おじの喫茶店を手伝っていた。
そしてここわかば珈琲と美穂は、日菜子にとっての駆け込み寺のようなものだ。
そして今日も、いつものごとく不満を抱えた日菜子がカウンターについた肘で頬を支えて、唇を尖らせていた。
美穂が手を動かしながら、ひとつため息をついた。
「で、今日は何があったのよ?」
ここまでわかりやすく落ち込んでいる親友をほうっておくこともできず、美穂は器用にラテアートを施しながら話を聞くことにした。
「聞いてくれる? もうね、ホントに今日は厄日だったわ」
通勤電車の痴漢騒動を話した。
「まあ、人助けをしたんだからいいことじゃないの?」
確かにそうだ。一般的に見れば落ち込むようなことではない。
「困っているか弱き女性を助けるなんて、まるで騎士(ナイト)か王子様じゃない」