エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
コトンと目の前に、可愛らしいクマが描かれたカフェラテが置かれた。しかし日菜子は笑顔になるどころか、顔を余計に歪ませている。

「そうよ! か弱い女性を助けるのは王子様の役目よ! でもわたしは、王子様になりたいんじゃないのよ」

 しっかりとラテをこぼさないようによけてから、がばっとそこに突っ伏した。

 美穂はやってしまったとばかりに、苦虫を噛み潰した。長い付き合いでわかっていたつもりなのに、うっかり地雷を踏んでしまった。

「ごめん……」

 美穂は謝りながら、カウンターから出て日菜子の隣に座るなり、背中をポンッと叩いた。

「いいのよ。わたしの修行がたりなかったのよ」

「修行って……」

 美穂が呆れ声を出すが、日菜子はまったく気にもとめない。

「これからはもっと気をつける」

〝目立たず、さわがず〟

 それが日菜子の信条であり、指針であり、座右の銘であり、スローガンである。

 個性を大切に……それもうなずけるし、否定もしない。人の考えはそれぞれだから。

 けれど日菜子の心に巣食った辛い過去が、彼女を頑なにしていた。

「もうそろそろ、そのトラウマ卒業したら?」

 親友を思ってのことだろう。けれど日菜子の心には届かかなかった。

「美穂にはわからないわよ。『男女』とか『怪力女』なんて呼ばれたこと無いでしょう?」

「まあ、たしかにそうだけど」

 こうなってしまったら、何を言っても仕方ない。今まで何度も説得を繰り返してきた美穂だから、無駄だとわかる。

 そもそも日菜子が、ほんの少し自分という物を隠して生きるようになってしまったのには、理由があるのだ。

 日菜子の今は亡き父、|松風剛健(ごうけん)は柔道のオリンピック銅メダリストだ。

 世間でも知られた父の開いた道場で、日菜子も幼少期から兄の剛毅(ごうき)とともに、柔道の英才教育を受けてきた。

 母を早くに亡くした日菜子は、男性に囲まれて生活していた。

 教えられるままを吸収し、褒められることに喜びを感じてますます強くなっていく。

 父親譲りのDNAも作用してか、兄と一緒にめきめきと上達していった。

 小学生低学年まではそれでよかった。周囲に褒められることを単純に喜べた。

 全国大会で金メダルを手にして、日菜子はうれしそうに笑っていた。 
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