エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~


 しかし思春期にさしかかってきたころから、だんだんと日菜子の中に葛藤が芽生える。

 周囲がおしゃれや、恋に関心を示しだす。日菜子とて同じだった。

 リボンやレース可愛いものが好きだったし、みんなが好きだったアイドルにだって興味があった。

 けれどそこらの男子よりも強かった日菜子を男子生徒がからかう。

「お前は男のくせに、リボンなんかつけるのか? ピンクの服なんか気持ち悪い」

 まだ幼い子供の言葉だったが、当時の日菜子には「男女、怪力」とからかわれるたびに深く傷ついていた。

 次第に男子生徒だけでなく、一部の女子生徒からも同じ同性として扱われなくなってきた。

 重い荷物を運ぶとき「松風さんは女子であって、女子じゃないでしょ?」なんてクスクス笑われて、男子と共に荷物を運ぶように言われたことは、一度や二度ではない。 

それでも自宅に帰れば柔道一色。そこでも父や兄のいないところで、いろいろと言われた。

「女じゃない。かわいくない。馬鹿力」

 自分よりも強い女の子に対する負け惜しみにすぎなかったが、日菜子の小さな心についた傷は、蓄積されていく。

 そして中学生になり淡い初恋を経験する。日菜子が最初に恋心をいだいたのは、父の道場に通うふたつ年上の男の子。

 練習が終わった後におしゃべりをしたり、父に内緒で映画を見に行ったりしていた。

 辛い練習もお互い励まし合っていた。年頃の女の子らしく世界の中心がその男の子になってしまっていた。

 しかし楽しかった時間はわずかだった。ある日彼が別の女の子――〝かわいい〟を具現化したような子――と一緒に歩いているのを見てしまった。その上彼が自分とでかけていたのは、父の手前仕方なくだと言うのを耳にしてしまった。

「つき合う? ないない。俺は、守ってあげたくなるような女の子が好きなんだ。それに試合中のあの子の目、怖すぎるんだよ。女じゃない」

 何年経ってもあのときの男の子の顔とセリフを鮮明に思い出せた。

 結局……そうなのだ。男の子はみんなかわいい子が好きなんだ。

 そのとき日菜子の中で何かが壊れた。これまでの辛かったことすべてを柔道の責任にしてしまった。

 傷ついた日菜子は練習にも集中できず、ケガをしてしまう。そしてそれをきっかけに柔道を辞めてしまった。
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