エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~


 けれど小さい頃傷つき泣いている姿を傍で見てきたこともあり、今の彼女を否定することもできない。だからと言って黙ってもいられずに、苦言を呈する。

「でもさ、女子として認められても彼氏のひとりもいないじゃんか!」

「それー! 言わないでよ」

 ガバっと起き上がると、カフェラテのカップを手にしてふうふうと息をふきかけて冷ました。美穂力作のクマのラテアートが無残にも崩されていく。

 頑張って努力はしてきたものの、トラウマからまだ抜け出せていない。年頃の女性だから男性に憧れはいだくものの、怖くて一歩踏み出せないのだ。

「まあ、今さら変われって言っても無駄だわね。筋金入りだもんね。でももしかしたらもう出会っているかもしれないわよ。運命の王子様に」

「そうだといいな……」

 もうクマでもなんでもなくなってしまったラテアートを眺め、いつか自分のことを受け入れてくれる男性が現れることを祈った。隣にいる美穂もまたしかり。

「で、それで今日の愚痴は終わり?」

 美穂の言葉で思い出したのか、日菜子は思いっきり顔をしかめた。

「あー! そうだった……。一番落ち込む話をしてなかった。見られちゃったのよぉ。一本背負いを。どうしよ~」

 一度立ち直りかけた心がまた折れた。それを象徴するかのごとく、カウンターに突っ伏す。右頬をつけて眉尻をさげた日菜子が美穂に助けを求める。

「誰に?」

「誰にって……同期の南沢くん」

 美穂はしばらく考えるように、瞳を上に向けている。そしてはっと思い出したのか人差し指を日菜子につきつけた。

「南沢って、あの日菜子にちょっかいかけてくるって人だよね?」

 カウンターに頬をつけたまま、激しくうなずく。

「なんだかんだ絡んでくるから苦手だったのにぃ……」

 よほどショックなようで、うつろな目をしている。

「まあ、見られたならどうしようもないわよね。口止めでもなんでもしておくことね」

 美穂が日菜子の背中をポンポン叩くと、日菜子はガバッと体を起こした。

「簡単に口止め出来ていれば、苦労しないわよ」

 日菜子の目が死んだ魚のような目になった。

「わたしの顔を見てニヤニヤしてた。あんな人に秘密を握られるなんて」

 できるなら、避けていたい相手。けれどそうもいかずにできる限り関わりを避けてきたのに、どうしてこんなことに。

 胸の中にずっしりと大きなおもりが落とされたようだ。

「見られたのはどうしようもないじゃない。開き直る? それとも知らないで押し通
す?」

「開き直るなんてありえないよ。だってまたあんな思いしたくないし」

 集団の中で異質なものになるのは、二度とごめんだ。日菜子の中に苦い思い出がよみがえる。

「でも『なんでも言うことを聞け』なんて、横暴だと思わない?」

「まあ、確かに。でも日菜子が黙っていて欲しいと思うなら、しばらくは言うことを聞くしかないんじゃない? 後はなるようになるわよ」

「冷たいっ! 人ごとだと思って!」

「冷たくもなるわよ、くたくたなんだから――」

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