エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
―――カランコロン
ふたりが言い合いをしていると、ふいにドアベルが鳴る。もう閉店の時間だ。営業時間を知っている常連ではないだろう。
「すみません、今日はもう閉店……」
「み、南沢……く、ん!!」
ガシャンと派手な音をたてて、カップをソーサーの上に落とした日菜子は目を見開き扉から入ってきた拓海を見つめる。
その様子を見た美穂は小声になる。
「南沢って……さっき言ってた?」
目も口もあけたままの日菜子は、美穂の問いかけに無言でコクコクとうなずいた。
そんな様子の日菜子を気に留めることもなく、そしてすでに閉店だと伝えた美穂の言葉も完全に無視した拓海が日菜子の隣に座った。
「俺にもコーヒーください」
にっこり微笑んだ顔に、美穂が思わず見とれてしまう。
完璧なまでに整った笑顔に閉店で追い出すつもり満々だった美穂はつい「かしこまりました」と答えてしまっていた。
日菜子は、なんとかこぼれずに済んだカップの中身を、無言で睨みつけていた。
「それ、飲まないの?」
「の、飲むよ」
せっかく美穂が勤務外に作ってくれたのだ、残すわけにはいかない。一口飲んでから、口を開いた。
「どうして、ここに?」
「斉藤さんに聞いたら、ここじゃないのかって……」
花には親友が勤めている喫茶店があると、教えた事があった。それにここに入り浸っていることも彼女は知っている。
思わぬところから、個人情報とはバレるものだ。しかし八つ当たり的に花を責めるのは間違っている。
日菜子は気を取り直して、話を本筋に戻す。
「そうじゃなくて、目的のことを聞いているんです」
「ああ、それか」
ちょうど美穂が日菜子にカフェラテのお代わりと拓海のコーヒーを運んできてふたりの前に置いた。
「ごゆっくりどうぞ」と声を掛けるとカウンターの中に入って、離れた場所からふたりの様子を窺っている。
それだけでも日菜子にとっては、心強い。
「色々話をしようと思っていたのに、お前がさっさと帰るからだろう」
「二時間残業したよ」
唇を尖らせてチラッと拓海を見る。彼には色々とばれてしまっているのだ。今更取り繕っても仕方がないと開き直る。
「ははっ、不満そうだな」
「不満だらけだよ、あたりまえでしょう」