エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
「断っても無駄だけどな。それに俺はお前の秘密を知っているのを忘れるなよ?」
「みんなに話すつもりなの? お願い、みんなには言わないで欲しい」
会社でもあれほど頼んだのに、拓海は気にならないことがあればばらすつもりらしい。
「ことと場合によっては……だな。あ、斉藤さんなんか噂好きだからきっと食いついてくるだろうな」
うれしそうに話をする拓海を、日菜子はおもいっきり睨み付けた。
「本当に、最低」
もう最低限の敬意すら払うつもりもない。
しかし睨み付ける日菜子を、拓海は歯牙にも掛けない。
「そうか? 別にばれても困るようなことじゃないだろう? 自分からおおっぴらにすれば、俺に弱みなんか握られないですむ」
「簡単に言わないで! わたしがどんな思いで……もういい、帰る」
日菜子は椅子から立ち上がると、バッグをつかみ拓海を睨みつけ扉に向かう。
「明日からよろしくな。松風」
クスクスと笑う声が、日菜子の背中につきささる。
ドアノブに手をかけた日菜子は、足を止め振り向いて口を開いた。
「南沢くんなんか、大嫌い。バカ、オタンコナス、変態!」
そう叫ぶと、勢いよく扉を閉めて出て行く。
彼女が出て言ったその後には、いつも穏やかな音を立てるドアベルが激しく鳴り響いた。
***
「なんだよ。バカ、オタンコナスは、まぁわかるけど、変態って……あはは!」
カウンターに座ったままの拓海は、悪態をつかれたにもかかわらず頬杖をついて笑っていた。そしてもう一度日菜子が出て行ったドアを見て笑う。
カウンターの向こうから美穂が、日菜子の飲んだカップを下げようと手を伸ばす。
「ああ、閉店してるのに申し訳なかった。あいつの分も払います」
スーツに手を入れ財布を出そうとする拓海を美穂が止めた。
「日菜子からもらうので、必要ありません。その代わり少しお時間よろしいですか?」
拓海に向けられた美穂の顔は真剣だ。
「どうぞ」
拓海は短く答えると、美穂の話に耳を傾ける。
「わたしはこの店で働いている、町田美穂といいます。日菜子のことは小学校から知っていて、親友と言っても差し支えないと、わたしは思っています」
「そうか。だから閉店後でもこの店に?」
美穂は小さくうなずいた。
「単刀直入に言いますけど、どういうつもりで日菜子にちょっかい出しているんですか?」
回りくどい言い方をせずストレートに疑問をぶつけてきた。
「どういうつもりも……構いたいから構ってるだけ……ってそんな怖い顔するなよ」
拓海が肩をすくめて見せても、美穂は鋭い視線を向けたままだ。その様子に拓海が折れた。
「知りたいんだよ。松風のこと」
それまでの浮ついた感じは完全に消えていた。短いその言葉が真実味を帯びる。
「あいつ会社でどんな顔で笑ってるか知ってるか?」
美穂は急に質問されて慌てて首を振った。
「作り笑いの見本みたいな、ひどい笑顔でさ。もっと自然にしてればいいのにってずっと思ってた」