エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
「だいたい松風さんがしっかりしてないからいけないのよ。同期だからって南沢くんに迷惑かけるのもほどほどにしないとね」
脇坂はしっかりと日菜子に釘を刺して、席に戻っていった。
いなくなったのを確認して、日菜子は拓海をひと睨みしてからパソコンの画面に向かう。
「わたしを断る理由に使うの、金輪際やめてよね」
「いいだろ、別に。減るもんじゃないし」
「なんで、わたしを利用するようなことするのよ。脇坂さんすごい目でこっち見てた」
「利用できるものは、何でも利用するのが俺の主義なの。覚えておけ」
(そんなこと、覚えていたくない……)
はぁと大きなため息をついたが、拓海は微塵も悪いと思っていないようだ。相手にするだけ無駄だとは思うものの、憤りを小さくぶつけた。
「どうせなら、飲み会に行けばよかったじゃない」
そうすれば、こんな面倒ごとに巻き込まれずにすんだのに。
「お前と違って俺は忙しいの。くだらない飲み会なんて行ってられるか」
たしかに拓海のアシスタントになって、その仕事の多さに驚いた。しかもどれも他の人とは一線を画したデザイン。彼でなければできない仕事だ。
とはいえ、断りの理由に使われた日菜子は気分が良くない。思わず唇を尖らせてしまう。
微塵も悪いと思っていない拓海と不毛な言い争いを続けるよりは、さっさと仕事を仕上げてしまいたい。
「そんなに怒るなよ。頼りにしてるんだから。だから馬車馬のように働いてくれよ。追加の作業指示、メールで送っておいた」
「ま、まだあるの!?」
「ははは! 助かるよ。アシスタントが優秀で」
声を上げて笑った拓海は日菜子の肩をポンッと叩くとデスクになにかを置いた。
「もう、こんなに仕事押しつけられても、できるわけないじゃない」
平穏な日々が失われたことを嘆き思わずつぶやいた。そしてふとデスクの上に視線を向ける。
そこにはスティックタイプののど飴が置いてあった。
なにも言わずに拓海に置かれたのど飴だ。彼は日菜子が咳をしているのを知っていたのだ。
不器用な優しさに、顔がほころんだ。普段は日菜子の前では強引で横暴だけれど、こういう優しさを時々気まぐれに向けてくる。
自分でもこんな小さなことで……と思う日菜子だったが、それでもそのタイミングが絶妙なのだ。
それにほだされてしまっているせいか、どうしても彼の事を嫌いになれないでいた。
まさに飴と鞭を絶妙に使い分けるあの男に、日菜子はまったく勝てる気がしなかった。
包みを開けて、口に放り込むと、甘酸っぱさが口の中に広がる。
拓海のくれたはちみつレモン味ののど飴が、日菜子の喉も心も潤していった。