エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
 日菜子が連れてこられたのは、美味しいと有名な創作イタリアンの店。丸いテーブルの向かいには拓海が座ってメニューを眺めている。

「松風、ワインは白でいい? 飲めるよな」

「え? まぁ、少しなら……」

 あれよあれよと断る暇もなく連れてこられた日菜子は、今も拓海のペースに巻き込まれたままでいる。

(なんでわたし、ここにいるんだろう?)

 目の前で店員に注文をする拓海をぼーっとみて、こんなに自分が押しに弱かったの
かと、愕然とする。
 いくら弱みを握られているからといって、ここまでいいなりになる必要があるのだ
ろうか。
 それに「絶対に嫌だ」と思っていないのだ。そこがすごくやっかいなところで、日菜子は自分の気持ちがよくわからずに、もやもやしていた。

「適当に頼むぞ」

 急に話を振られた日菜子は、考えずにだまったままうなずいた。

「じゃあ、これと……これと、あ、これも。あ、これってサーモン入ってますか?」

 拓海の問いかけに、店員がうなずいた。

「じゃあ、こっちのサラダに変更で。以上です。お願いします」

 日菜子はメニューを閉じてテーブルに置いた拓海に尋ねた。

「南沢くんも、生魚苦手なの?」

 実のところ日菜子は生魚が苦手だ。誰かと食事に行くときは、行儀がいいとはいえないがそっとよけて食べている。

「あ、俺? 好きだけど」

「えっ? だって……」

 では先ほどなぜ、わざわざ注文を変更したのだろうかと疑問に思う。

「だって、お前食べられないだろ。いつも残してる」

「知ってたの?」

 そもそも日菜子は会社の飲み会に参加するのは、忘年会くらいだ。あとはお世話になった人が異動するときくらいで、なるべく参加を避けていた。

「ああ。しかし生魚食えないなんて、かわいそうだな。今度寿司おごってやろうか?」

 からかいを含んだ笑顔を浮かべる拓海を、日菜子は軽く睨んだ。

「ありがとう。玉子とうなぎ、それからエビにたこに青柳、えーっと鱧だって……」

 ムキになった日菜子に、拓海は声をあげて笑った。

「わかった、わかった。今度は寿司食べさせてやるから」

 なだめるように言われて、口をつぐんだ。これでは、日菜子が連れて行って欲しいと言ったように聞こえる。

(ちゃんと言っておかないと!)

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