エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
 そんな日菜子の体を支えたのも拓海だ。背中に回された大きな手に力がこもる。

「ご、ごめんね」

 今度はしっかりと足を踏ん張って立った。そしてゆっくりと拓海から距離をとる。

 彼も日菜子の様子を確認すると、手を背中からどけた。

「なにぼーっとしていたんだ」

 そう聞かれても、理由が理由だけに答えられない。

「ごめんね。迷惑かけて」

「それは別にいいけど。怪我してないか?」

 心配げに日菜子の様子を窺う拓海に、恥ずかしくなって早口でまくしたてた。

「平気だよ。わたしが強いの、南沢くん知ってるでしょ? 昔ほどじゃないけど、今だって――」

「平気じゃないだろ」

「え?」

 それまで恥ずかしさをごまかすようにしていた日菜子に、拓海は真剣な眼差しを向けた。

「平気なわけ、ないだろ。女の子なんだから」

(……女の子……か)

 いつものからかうような雰囲気はかけらもなかった。本当にそう思っていることがひしひしと伝わってくる。

 胸のなかにじんわりと広がる喜びに、目頭が熱くなってくる。

 日菜子は自分がコンプレックスの塊であることを自覚していた。他人からどんなふうに見られるかいつも気にしていた。

 拓海としては、特別意味のある言葉ではないかもしれない。けれど自分を否定してきた日菜子にとっては、泣きたくなるほどうれしい言葉だった。

「どうかしたのか? やっぱりどこか怪我して――」

「ううん、なんでもないよ」

 胸のうちを悟られないように笑顔を作って顔をあげた。目の前には心配そうに見つめる拓海の顔がある。

「だったらいいけど……ほら、行くぞ。終電間に合わなくなる」

 拓海は日菜子の肩をポンッと叩いて、一歩前を歩き出した。その背中についていく。

(急にあんなこと言うなんて、ずるいな……)

 自分の中に芽生えつつある感情に戸惑いながら、おいていかれないように彼の後ろをついていった。

< 38 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop