エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
 熱いカフェラテがかかった手がジンジンと痛む。でもそれよりも心が悲鳴をあげていた。

 脇坂の言葉は日菜子だって自覚がある。だからこそ拓海がなぜ自分を誘ったのか知りたかった。そしてその理由になにか特別なものが込められていてば……という期待をしてしまっていた。

 思わず期待してしまっていた自分に、脇坂が「身の程知らず」だと釘を指したのだ。

 思春期のころ周りの言葉に傷ついたあのころと、日菜子はなにもかわっていなかった。

仕事も真面目にしているおかげで、上司や同僚ともうまくやっているつもりだった。

拓海とふたりで食事をしたことで昨日まではほんの少し自分に自信が持てた気がしていた。

 けれど結局ほんのちょっとのことで崩れてしまう自信だった。脇坂の言葉は悔しいけれど、それを受け入れてしまう自分が情けなくそのことに日菜子は落ち込んでいた。

 蛇口をひねり、水道の水を止めた。まだ痛みはあるが、このままここにいるわけにはいかない。マグカップを洗ってかごに入れると日菜子は顔をうつむけたまま給湯室から出た。

 痛む左手を右手でかばうようして歩いていると、正面から声がかかった。

「松風、どこ行ってたんだよ」

 声だけで相手が誰だかわかった。呼び止められたので足を止めたけれど顔を上げることができない。

 こんな混乱した感情のときに彼に会いたくなかった。

「探したんだぞ。鞄が席にあるのに見当たらないから……金曜に次は寿司かビールがいいって話してたけど――って、おい。その手どうしたんだ?」

 それでまで一方的にしゃべっていた拓海の視線が、日菜子が庇うようにしていた赤くなった左手に向けられた。

「なんでもないよ。それより、どうかした?」

 後ろに手を隠し、拓海から見えないようにする。しかし拓海はそれを許さなかった。

「なんでもないはずないだろ。痛いのか? 見せてみろ」

 一歩前に出てきた拓海が手を伸ばす。しかし日菜子は一歩下がってそれを拒否した。

 本当はそんなふうに心配してくれたことがうれしかったけれど、また勘違いをしてはいけないと自分に言いきかせる。

「本当に大丈夫だから気にしないで。それと食事は誰か別の人を誘ってくれる。わたしは行かないから」

 言いたいことだけ言って、彼の横をすり抜けようとする。しかし拓海は前に立ちはだかりそれを許さなかった。
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