エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
「なあ、なにその態度。俺なにかしたか? 俺は他のヤツじゃなくて、お前を誘ってるんだ」
あきらかに怒っている。その理由も日菜子は理解できた。いきなりあんなふうにつっけんどんに言い返されたら誰でも嫌な気持ちになる。
けれど今、自分のことでいっぱいの日菜子は気を回すことができずにただ黙り込むことしかできなかった。
「わかった、もういい」
拓海は大きなため息をつくと、フロアに戻っていってしまう。
ひとり残された日菜子は、ぐっと奥歯を噛み締めた。
(なんで、こんなことになっちゃったんだろう)
金曜の夜は楽しかった。自分だってそう思っていた。男性とふたりきっりで食事ができて、また行きたいと思った。
自分の中の何かが変わりつつあると思っていたのに、ほんのちょっとの出来事で振り出しに戻ってしまった。
(だけど、それも事実なんだもの)
大きく肩を落とした日菜子は、まもなく始業時刻ということでモヤモヤした気持ちのまま席に戻ることにした。
「あ、松風さん。いた~」
フロアに戻ると、すぐに花がこちらに向かってきた。手には救急箱を持っている。
「怪我ってどこですか? あ、手ですね。ちょっと赤くなってます」
花が心配した様子で日菜子の手を取る。
「あの……さっき十分冷やしたし、大丈夫だから。でも、どうして?」
なぜ花が日菜子のやけどのことを知っていたのだろうか。
「さっき、南沢さんが『松風が怪我してるから手当してやってくれ』って教えてくれ
たんです」
「南沢くんが?」
「ええ」
確かに先に彼がフロアに戻っていった。しかし時間としてはわずかのはずだ。
その短い時間の間に花に自分の怪我の話をしていたことに日菜子は驚きとともに、胸の中
に湧いてくる切なさに胸が苦しくなる。
彼にはなんの非もなかったのに、日菜子が自分の弱さを拓海にぶつけて彼を怒らせ
た。
失礼な態度をとったのだ、怒るのも無理はない。
それにもかかわらず拓海は、日菜子の怪我を心配して花に手当を頼んでくれていたのだ。
このときになって日菜子の中にあった後悔の念が大きく膨らむ。