エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
あのとき日菜子は感情がたかぶっていた。だからと言って拓海にあんな言い方をしてはいけなかった。
まわりから見た日菜子は――少なくとも脇坂から見れば――女性としては平均以下なのかもしれない。
そんな日菜子が皆の人気者である拓海の隣にいることを、目障りに感じるのかもしれない。
けれど自分の本当の気持ちはどうなのか。拓海と一緒に過ごした時間は楽しかった。
ついさっきだって本当はうれしかったのに、まわりの目を気にして彼の気持ちを考えなかった。拓海はなにも悪くないのに、完全なやつあたりだ。
(わたし、本当は……)
顔をあげてフロアを見渡し拓海の姿を探すが姿はない。
「斎藤さん、南沢くんはどこに行ったか知ってる?」
手当をしようとしていた花は、突然のことに驚いたようだが答えた。
「つい先程、外出しましたけ――」
日菜子は花がすべて言い終わる前に、走り出していた。
エレベーターは出勤時刻と重なっていて、人で溢れている。下に行くボタンを押したところで、乗るのには時間がかかるだろう。
日菜子は迷わず駆け出して階段を駆け下りた。ときおりすれ違う人は勢いよく駆け下りていく日菜子を何事かと見るがそんなこときにもとめずに、日菜子は走った。
「あれ? 松風さん?」
二階と三階の踊り場でばったりと西野に出くわした。
「そんなに急いでどうかした?」
相変わらずの爽やかな笑顔だ。けれど日菜子はそんなことを気に止める余裕さえな
かった。
「あの、南沢くんを探してるんです。すみません、急ぐので」
そのまま振り返りもせずに、日菜子はまた階段を駆け下りていった。
勢いよく一階まで駆け下りて、エントランスに行き交う人たちの中に拓海の姿を探す。もうすでにそこに姿はなく、日菜子は祈るような気持ちで、会社の正面玄関を抜けると、周囲に目を向けた。
すると駅とは反対方向に向かう人の中に、拓海の姿を見つけた。
「南沢くん」
必死で走り追いつこうと、人並みを縫うように走る。途中で何度も彼の名前を呼んだ。
息切れして苦しいけれど、あきらめなかった。
「南沢くんっ!」
日菜子の必死の呼びかけが、拓海に届く。彼は足を止めゆっくりと振り向いた。
「松風!?」
驚いたように目を見開いた拓海は、焦った様子で日菜子の元に向かって掛けてきた。