エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
「お前はもっと自由になっていいんだ。俺はそんなお前を傍で見たいと思う」

(それって……これからもこうやって傍にいてくれるって……こと?)

 聞きたいけれど、うぬぼれのような気もして聞けない。

「だから何かあったときは、ひとりで抱え込まない。俺が力になりたいんだ。そのくらいいいだろう?」

(なんで……どうして)

 疑問の言葉ばかり浮かんでくる。どうして自分に対してここまでしてくれるのかと。それと同時にドクドクとうるさいくらいに鼓動がはねる。

 拓海の大きな手が伸びてきた。日菜子の頬にかかっていた髪をその手がゆっくりとなでつける。それは頭を撫でられているように心地良く、日菜子の胸をときめかせた。

 ゆっくりと拓海との距離が縮まる。

 三十センチ、二十センチ……十五センチ、十センチ……。

 我慢出来なくなった日菜子が、ぎゅっと目をつむりそうになったとき観覧車内のスピーカーから間もなく地上だというアナウンスが流れた。

「けっこう、早かったな」

 さっきまでのはりつめた雰囲気は解かれた。拓海の顔はいつもの彼に戻っている。

 けれど日菜子は彼の言葉に何も返してないことに気がついた。

 係員の姿が視界に入る。もう時間はない。

「南沢くん、ありがとう。うれしかった。だから、わたし変わりたい。変わろうと思う」

 自分でもなにを言っているのか、急にこんな宣言されても相手が困るだけだ。言ってしまってから反省するけれど、もう遅い。

 しかし拓海は優しくほほ笑む。

「がんばれよ」

 バカになど一際せずに、彼は笑って日菜子を見つめた。そして手を伸ばして日菜子の髪をひとなでした瞬間、観覧車の扉が開いた。

 先に降りた拓海が、日菜子に手を伸ばす。

一瞬その手をとるかどうか悩んだけれど、日菜子は手を差し出した。


< 59 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop