エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
 最寄りの駅から十分弱。日菜子のマンションまでの道は緩やかな上り坂だ。広めの歩道には街路樹が植わっていて四季を感じることができ彼女のお気に入りだ。

 その遊歩道を日菜子は拓海と肩を並べて歩いていた。

 街灯に照らされてふたりの影が伸びる。背の高い拓海の歩幅は大きなはずなのに、日菜子と同じスピードで歩いてくれていた。

 ほんの些細な気遣いのひとつだが、日菜子にとってはうれしくもはずかしい。

 だから心では思っていないことを口にする。

「わざわざ送ってもらわなくても平気だったのに。ごめんね」

 隣を歩く拓海の顔を窺う。

「俺が送りたいからそうしただけ。お前が気にしなくていい」

 前を向く拓海がなんでもないことのように言ったその言葉は、日菜子の頬を緩ませた。どうやっても喜びを隠しきれない。

 ただ隣を歩いているだけだった。いつもみたいにあれこれ言い合いをするわけでもない。

 けれど気まずさなどは微塵も感じず、むしろ彼の隣にいる心地よさを感じていた。

 一歩一歩日菜子のマンションが近づいてきた。名残惜しくて少し歩くスピードを緩めた自分に日菜子は自分でも驚いた。

 けれどほどなくして、日菜子のささやかな抵抗むなしくマンションに到着する。

「ここの三階なの。右から二番目の部屋」

 道路からは丁度部屋のドアが見える。

 足を止めた拓海に日菜子が伝えた。

「ふーん。いいとこじゃん」

 周囲をみわたしながら、拓海がつぶやいた。それ以降ふたりの間に会話はない。

「……じゃあ、今日は本当にありがとう」

 このままここで、こうしているわけにもいかず日菜子から切り出した。

「いいや、俺も楽しかったし」

 白い歯を見せて笑う拓海につられて日菜子も笑顔を浮かべる。

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