あやかし神社へようお参りです。②
「いいえ、この門をくぐったということは、彼もまたお客さまです」
凛とした声でそう言い切ったおばあさん。かげぬいに向かって微笑みかけると、少しだけ身を乗り出してストールを肩にかけ直す。
「私にご用でしょうか、妖怪さん」
かげぬいは茫然としたままおばあさんの顔を見上げていた。ぴくりとも動かないかげぬいに、おばあさんは少し困ったように眉を下げ笑いかける。
固唾をのんでその様子を見守る。私の間違いでなければ、かげぬいが待っていたのはあの頃はまだ少女だった賀茂くんのおばあさんなんだ。
おばあさんはかげぬいのことを、もうちっとも覚えていないのだろうか。
お互いの瞳を覗き込むように、ふたりはじっと見つめ合っている。先に沈黙を破ったのは、おばあさんの方だった。
「貴方、どこかでお会いしたことがあるような────。貴方のような目を、随分と昔見たことがある気が。夜空を閉じ込めたような、不思議な七色に光る素敵な目……」
かげぬいの瞳が揺れた。
「────貴方に、名を頂きました」
「名前は……」
「私は、かげぬい」
風が吹き抜ける。
おばあさんが噛み締めるようにその名前を呼んだ。「ああ、ああ」そういって徐々に声を弾ませる。