しあわせ食堂の異世界ご飯5
「動かないよう、お願いしますね」
 手際のいいお針子は、さすが王城に出入りするだけあって優秀だ。
 ドレスを仕立てるのは女性のデザイナーで、真剣な顔でアリアの採寸データを確認している。
「……アリア様は、好みのドレスデザインなどはありますか?」
「そうですね、できるだけ落ち着いた大人の雰囲気を希望します」
「かしこまりました」
 デザイナーは紙に何通りかのデザインを描き起こし、どんなものがアリアに似合うか思案しているようだ。
 新しくドレスを設えるのは久しぶりなうえ、ジェーロの人気デザイナーに作ってもらうのでどうにも緊張してしまう。
(この人が流行の最先端にいるのよね……?)
 今までは落ち着いた色合いで、けれど可愛らしいドレスを着ることが多かった。
 それもあって期待は高まるのだが、自分にちゃんと着こなせるのかということも脳裏を過る。
(そんなにスタイルがいいわけでもないからなぁ……)
 アリアはいたって標準体型で、胸が大きいわけでも足がすらりと長いわけでもない。そのため、今まで大胆なドレスは片手で数えるほどしか着たことがない。
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