しあわせ食堂の異世界ご飯5
 アリアは仕方なく笑顔で立ち上がり、生徒の前――壇上へと立つ。
 一斉に生徒たちの視線が向けられて、ピリッとした空気が肌に刺さる。ほどよい緊張感だ。
(こんなに大勢の人の前に立つのは、久しぶりね)
 王女として、エストレーラで民衆の前に立ったとき以来だろうか。
 けれど今は、王女としてではなく、しあわせ食堂の料理人としてここに立っている。それがなんだかとても不思議だ。
 料理人なのだから、話すことは食にまつわることがいいだろう。

 音声を拡大する魔法具を手に持って、アリアはまっすぐ前を見る。
「みなさん、ジェーロ帝国学園への入学おめでとうございます。私はしあわせ食堂で料理人をしている、アリアといいます」
 前に立って話すときは、ゆっくり、聞き取りやすくはっきりと。そして要点をまとめて短めにしないと、子供たちにすぐ興味をなくされてしまう。
(すでにほかの教師の挨拶も聞いてるからね……)
 きっとそろそろ疲れてきているはずだ。
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