我妻教育3
「ほんとうに、ご立派になられましたねぇ。
啓志郎お坊っちゃまのご成長が、チヨは誇らしゅうございます」

「ありがとう、チヨ」

握った手に優しく力を込めて、温かな視線を注ぐ。
かつて小学生だった少年は、いまや立派な高校生だ。

元々の端正な顔立ちは大人びてより凛々しくなり、声は低くなって、身長は高くなった。

見た目の成長だけじゃない。
教養の深さ言わずもがな、高い志により心身ともに磨きがかかった。

大学はそのままアメリカで、きっとハーバードとか?すごいとこ行っちゃうんだろうなぁ~。

どんどん遠くなる。


……うちなんて、レストランになっちゃうみたい。

昨年末に、カキツバタ商事の代表取締役だった義理の父が、経営不振の責任を取って辞職した。

維持が難しく売りに出した我が家は、すぐに買い手が見つかった。

改装されて、レストランになるんだって。

何度も、飛び出したくて仕方なかった家だった。
でも、いざ無くなるとなると困惑したけど、どうすることもできなかった。


義父たちのことは、ここから遠く離れた祖父の遠縁が営む酒蔵が引き受けてくれた。

弟の勇(イサム)高校1年生は、あっさりとしていた。
堕ちるときは一気に堕ちますね、と苦笑いはしていたけど。

もっと義父に突っかかると思っていたのに、何も反論せずについて行った勇には拍子抜けしたかな。
< 4 / 102 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop