我妻教育3
あたしも一緒に酒蔵に行こうと言われたけど、そんな気にもなれなくて。

あれよあれよという間に家族は引っ越し、地元に留まったあたしは一人暮らしを開始した。

状況を知って心配してくれた啓志郎くんからは、何度も連絡をもらっていた。
あたしも、都度近況は報告してた。


「未礼お嬢様も元気そうで何よりでございます」

「はい!あたしは、すっごく元気ですよ!」

お見舞いの花を飾りながら、目一杯の笑顔で答えた。


もう、お嬢様じゃない。

あたしの状況は、目まぐるしく変わっていく。

大丈夫か?と問われたら、大丈夫って答える。

毎日忙しく、一人で頑張ってる。


「チヨさんも無理しないでね」

あたしの言葉を受けて、チヨさんは満面の笑みを浮かべた。

「ええ。啓志郎お坊っちゃまと未礼お嬢様がご結婚されるお姿を見るまでは、チヨは死にません」

「チヨさん…」

「チヨはいつも我が家のことばかりだな。
嬉しいが、少しは自分のことも考えたらどうだ?」

「いいえ、啓志郎お坊っちゃま。
それがチヨの幸せなんです」


「チヨ。
そちらの方のご都合もおありでしょうから、無理を言ってはいけませんよ」

高貴な年配の女性の声が、チヨさんを諭す。

振り向くと、一人の女性が病室に入ってきた。
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