我妻教育3
「だよね~。本当に良い人たちで、良かった。
あ、そうだ、明後日だけど、空港に見送りに行っていい?」

「来てくれるのか」

「うん、もともと仕事休みの日だし、暇だし」

「…時間があるならば、発つ前に未礼の手料理が食べたいのだが」

「いいよ~、じゃあお弁当作って行くね」

「ありがとう。楽しみにしている」

「何が食べたい?」

「そうだな、未礼が作るものは何でも美味しいから、悩むな…」

本当にあたしの手料理が気に入ってくれてるんだな。

日本に住んでた頃は、家政婦さんの手料理を食べてたけど、ニューヨークでは、日本の家庭料理を食べる機会なんて少ないだろうし。

啓志郎くんの家を思い出したら、チヨさんの玉子焼き、また食べたくなってきちゃった。

ふすまを眺める。
ふすまを閉めずに何度も怒られたなぁ…なんて。

「なんか、思い出しちゃった。
啓志郎くんのお家で、一緒に暮らしてたときのこと」

「ああ。私もだ」

「懐かしいなぁ~」

「そうだな、懐かしい」

「あの頃から、ずいぶん変わっちゃったなぁ~。
お祖父ちゃんもいなくなったし。
家もなくなっちゃったし。
一人ぼっちになっちゃったし。
寂しいなぁ……。
戻りたいなぁ~、あの頃に」

……なんてね。

強い孤独感に襲われた。

色々辛い、寂しい。

一人だし。
実家はないし。
仕事も上手くいかない。

怖い。
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