我妻教育3
「え?いえ、あの……」

なおも会長夫人は止まらない。

「垣津端さん、おいくつだったかしら?
ああ、そうそう、わたくしのご友人のご子息なんですけど、30代で良い方がいらっしゃるのよ。
きっと、お似合いだと思うわ!
よろしければ近々…」

「おばあ様」
啓志郎くんは制止するように強めの口調で会長夫人に呼びかけた。

結婚相手の紹介してくれるって…、ーーああ、そういうことか、と納得。
言いたいのは、それ。

会長夫人の微笑んでいながら冷静な瞳が、啓志郎くんを黙らせる。

「啓志郎は仕事に勉学に忙しいでしょう?
それは承知しておりますが、おじい様もお待ちです。
帰国したならしたで、顔くらい出しなさいね」


「…あの、せっかくのお話ですけど、ご紹介は結構です…。
それから、私はこれで失礼致します。
チヨさん、またね」

会長夫人に深く一礼し、申し訳なさそうなチヨさんに笑いかけてから、病室をあとにした。

啓志郎くんのお祖母さんは、あたしに、啓志郎くんとの結婚はない。松園寺家には関わるなと言いたいんだろう。

そりゃあ、そうだろうね。

それにしても、意思の強いお祖母さんだった。

はー、息が詰まった。

緊張してのど乾いたから、ペットボトルの水を買って、中庭に出る。

緑豊かな広い庭。どこからかセミの声が聞こえる。
さすがに日中は暑くて人の姿は少ない。
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