我妻教育3
「啓志郎くんは、卑怯なことが一番許せない人ですから」

『マイラ様が卑怯だと仰るのですか?
貴女、ご自分が何を仰ってるのか分かっているのですか?』
あたしを咎めるような強い口調だ。

でも、こっちだって退くわけにはいかない。大人しく泣き寝入りだけはしない。

大きく息を吸ってから言った。

「そちらから見たら些細な仕事でも、あたしには大事なんです。
もし仕事を失ったら、ショックで、啓志郎くんに泣きついちゃうと思います。
そしたら、啓志郎くん、マイラさんのことどう思うでしょう」

『それは…』
マネージャーは、言葉に詰まった。

「これ以上、あたしに関わらないで下されば、今回のこと、啓志郎くんには何も言いません」

マイラ姫。
啓志郎くんが好きなら、正々堂々と啓志郎くんに向き合うべき。

信号が青に変わった。再び駅に向けて、早足で歩き出す。

少しの沈黙のあと、マネージャーは、ふーと、ため息をついた。
『承知しました。今回のお話は無かったことに致しましょう』

「はい。失礼致します」
語尾がかすれた。タンカ切ってしまった。

電話を切ってから、手が震えた。

マイラ姫、怒らせちゃったかな?

タウン誌の連載は守れたかな?
無理かな?
無理ならまた、一から頑張ればいいんだ。

強くなったな、あたし。
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