我妻教育3
「これも美味しいな」一口食べるたびに、ゆるむ表情筋。

なんて警戒心のない顔なんだろう。

ちょっとした優越感と、ほのぼのと温かい気持ちになる。

「料理ってやっぱスゴいよねぇぇ」

「どうした?改まって」

「だって、啓志郎くんが笑うんだもん!」

「?どういうことだ?」

「笑わせるのが難しそうな啓志郎くんみたいな冷静で寡黙な人でも、美味しいものを食べたら自然と笑顔になるじゃない?」

美味しいもの食べて、不機嫌になる人なんていない。
料理は人を笑顔にできる。

だから、もっと、料理が上手くなりたい。

もっと、啓志郎くんを笑顔にしたい。

啓志郎くん以外の人も、もっと。

「そうだな」と、啓志郎くんも同意して、
「美味しいものを食すと、自然と笑顔が出るものだ」
言いながら、しみじみとお弁当を眺めた。

「でしょ?」

「ただ…、」
啓志郎くんが気まずそうに、ちらりとあたしに視線を走らせてから、
「今、私が笑顔になれるのは、料理だけが理由ではない」
すぐに視線をお弁当に戻した。

「どういうこと?」

「今は、…」
珍しく、言いよどんでいる。

どうしたの?と聞こうと身を乗り出したら、啓志郎くんが思いもよらない一言を口にした。

「今は、未礼がいるからだ」
言ってから、プイっと顔を背けた。
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