アラサーですが異世界で婚活はじめます
 そんなリオネルが、美鈴が子爵家令嬢として初めて参加する舞踏会のエスコート役を買って出たのは、当然と言えば当然の成り行きだった。

そればかりか、美鈴が今着用している舞踏会用の夜会服はアクセサリーや靴などの小物も含めて全てリオネルが見立てたものだ。

 種々の織物の輸入事業、紡績業への投資で利益を得ているバイエ子爵家のリオネルは、自らファッションアドバイザーのような活動をしている。

 上流貴族向けの洋服商との付き合いはもちろんブティックやファッション雑誌の編集社にまで顔を出しているらしい。

『本来美しいご婦人に隠されている「真の美」を発見し、さらに輝かせるために、私は微力を尽くしたいのです』

 ……と、本人は殊勝気に説明するのが常だったが、貴族の中には『単にご婦人の人気とりのために、貴族の子弟が道楽としてやっているのだ』と、ゆく先々で美女に囲まれているリオネルをやっかむ輩も少なからずいるらしい。

 片手に持ったシルクハットをひらひらと躍らせながら、リオネルは彼の選んだ舞踏会用ドレスを着た美鈴にわざと一歩ずつ、ゆっくりと歩み寄る。

 その間、彼の熱い視線は一瞬たりとも外されることなく、美鈴に注がれている。

 そもそも、リオネルに限らず男性から見詰められることに慣れていない彼女は、その視線に耐えられず気恥ずかしさから無意識に顔を伏せた。

 そんな美鈴の反応などお構いなしに、リオネルは怯むことなく悠々とすぐ傍まで近づいてくる。

ついに、リオネルが美鈴の前で立ち止まった。

 大柄なリオネルは、身長163cmの美鈴から見れば、ゆうに頭一つ分は身長差がある。

 リオネルの物腰はあくまで紳士のそれではあったが、世間一般の女性以上に男性慣れしていない美鈴は緊張していた。

 きわめて無遠慮に上から下までなめるような視線を這わせた後、美鈴にはわざとらしく感じられるほど大仰に、リオネルは感嘆の吐息を漏らした。
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