アラサーですが異世界で婚活はじめます
23-2 湖畔の再会
「貴女は……!」
快活そうなアンバーの瞳を大きく見開いて、ジュリアンは美鈴をしげしげと見つめた。
「……何だ、彼女と知り合いだったのか?」
「うーん……知り合いというか、顔見知りというか?」
フェリクスへの返答に困っているジュリアンに対して美鈴が深々と頭を垂れた。
「そっ……その節は……危ないところを助けていただいて、ありがとうございました」
「いや、そんな大したことは……。というか、実はずっと気になっていたんだ。あれから君がどうしたのか……」
ジュリアンは照れ臭そうに栗色の巻き毛頭に片手をあてながらそう言った。
「結局、あの男はすぐにあの場から逃げてしまったんだけど。君の無事を確かめようにも、どうにも足取りがつかめなくて……でも」
きっと誰もが好感を持つであろう、輝くような笑顔でジュリアンは美鈴に微笑みかけた。
「よかった……。また会うことができて。元気そうな顔も見れたしね!」
二人のやり取りがひと段落したのを見計らって、フェリクスは立ち上がってジュリアンの方へ進み出た。
「……で、持ってきたのか?」
ジュリアンが大事そうに抱えているバスケットにチラリと視線を向けてからフェリクスが尋ねた。
「ああ、バッチリ。あ、よかったら、君も一緒にどうですか? ちょうど昼食をもってきたんだけど――」
屈託のない笑顔でジュリアンは美鈴を食事に誘った。
「いえ! せっかくですが……わたしは連れもいますし。これで失礼します」
そそくさと礼をすると、美鈴は後も見ずに来た道を駆け戻った。
……何という偶然だろう。こんなところであの日森であった二人に再会しようとは……!
「ジュリアン、貴族の令嬢に対していくらなんでも失礼じゃないか、イキナリ男二人の昼食に誘うなんて……」
ジュリアンからバスケットを奪いながら嗜めるようにフェリクスは言った。
「そうかな。お前が上機嫌で女性といるなんて、滅多にない機会だから気を利かせたつもりだったんだが」
したり顔でそう返すジュリアンをフェリクスは軽く睨んだ。
「……勝手な気を回すな。彼女の名前も知らないくせに」
「あっ……そうだった。俺としたことが。フェリクス、お前はもちろん知っているんだろう?」
フェリクスからバスケットを奪い返しながら、ジュリアンはニヤリと笑った。
「……教えてくれないんなら、これは渡せないなあ?」
ジュリアンはふざけた様子でバスケットを自分の頭の上に掲げてしまう。
二人とも180センチを超える長身だが、ジュリアンの方が若干背が高い上、スラリとしたフェリクスに比べてやや筋肉質な体型をしている。
「……子供か!」
ややムッとした表情でフェリクスが毒づいた。
「ミレイ……ミレイ・ド・ルクリュ。子爵家の令嬢だ」
「ああ、ルクリュ子爵家かぁ……でも、あそこの令嬢は確か……?」
ほんのわずかに油断した隙を狙って、フェリクスがジュリアンの腕を捉えた。
「あッ!?」
「……フン、油断したな」
ジュリアンからバスケットを奪い取るとフェリクスはそのまま湖畔へ向かい、先ほど寝そべっていた場所に腰を下ろした。
バスケットを開け、さっとナプキンで手を拭うとバケット・サンドイッチを手に取ってかぶりつく。
そうやって青年らしい粗野な動作をしてみても、腰を下ろすしぐさ、サンドイッチをつまむ手つきにさえ、隠すことができない優雅さが漂っている。
「あああ……! 頼むから、同じ種類ばっかり食べるなよ。偏食なんだから」
口うるさくあれやこれやと言う割には、ジュリアンがフェリクスを見つめる瞳は温かい。
一つ年上のジュリアンはフェリクスの母方の伯爵家の親戚筋にあたり、年頃が近いこともあり幼いころからずっと親しくしてきた二人ははたから見れば兄弟のような親友のような関係に見える。
表面上の人付き合いはそつなくこなしても本来は社交嫌いなフェリクスの一番の、そして唯一の理解者であるジュリアンはこの間の舞踏会のようにメッセンジャーや代役を務めることもままある。
そんな彼が、ふと、フェリクスのある「変化」に気づき、少々戸惑っていた。
「あの……子爵令嬢、ミレイ嬢とはいつ知り合ったんだ?」
キラキラと輝く湖面を眺めながら、何気ない風を装ってジュリアンはフェリクスに尋ねた。
「知り合いというほどでもない。偶々、森の中で足を怪我して困っていたところを助けただけだ、……ドルンが」
照れ隠しからか、誤魔化すように最後に小声で愛犬の名前を呟くあたりが彼らしい。
「ドルンが……ねぇ」
湖を渡って吹く風が、前髪を軽く吹き上げ、頬を撫でて通り過ぎていく。
心地よい風に目を細めながら、ジュリアンはある「思いつき」に静かに考えを巡らせた。
「……おい、いいのか?」
しばらくしてからフェリクスがジュリアンに声をかけながら、バスケットの縁をちょんちょんと指でつついた。
「あ……!?」
我に返ったジュリアンはバスケットの中を急いで確認したが、時すでに遅しで彼の好物の魚の燻製のサンドイッチがなくなっている。
「っああああ~~!!」
「ボーっとしているお前が悪い」
澄ました顔で呟くとフェリクスはさっと立ち上がって思い切りのびをした。
「……そろそろ、戻るか」
気だるそうに髪をかき上げてそう呟く様は同性のジュリアンの目にもドキリとするくらい、なまめかしく美しく映った。
「ったく、仕方ないなぁ。でもまぁ、風も出てきたことだしな……」
渋々といった体で、ジュリアンも腰を上げながら先ほど思いついたある計画について考える。
……あの令嬢――ミレイ嬢か。試してみる価値はあるかもしれない。
快活そうなアンバーの瞳を大きく見開いて、ジュリアンは美鈴をしげしげと見つめた。
「……何だ、彼女と知り合いだったのか?」
「うーん……知り合いというか、顔見知りというか?」
フェリクスへの返答に困っているジュリアンに対して美鈴が深々と頭を垂れた。
「そっ……その節は……危ないところを助けていただいて、ありがとうございました」
「いや、そんな大したことは……。というか、実はずっと気になっていたんだ。あれから君がどうしたのか……」
ジュリアンは照れ臭そうに栗色の巻き毛頭に片手をあてながらそう言った。
「結局、あの男はすぐにあの場から逃げてしまったんだけど。君の無事を確かめようにも、どうにも足取りがつかめなくて……でも」
きっと誰もが好感を持つであろう、輝くような笑顔でジュリアンは美鈴に微笑みかけた。
「よかった……。また会うことができて。元気そうな顔も見れたしね!」
二人のやり取りがひと段落したのを見計らって、フェリクスは立ち上がってジュリアンの方へ進み出た。
「……で、持ってきたのか?」
ジュリアンが大事そうに抱えているバスケットにチラリと視線を向けてからフェリクスが尋ねた。
「ああ、バッチリ。あ、よかったら、君も一緒にどうですか? ちょうど昼食をもってきたんだけど――」
屈託のない笑顔でジュリアンは美鈴を食事に誘った。
「いえ! せっかくですが……わたしは連れもいますし。これで失礼します」
そそくさと礼をすると、美鈴は後も見ずに来た道を駆け戻った。
……何という偶然だろう。こんなところであの日森であった二人に再会しようとは……!
「ジュリアン、貴族の令嬢に対していくらなんでも失礼じゃないか、イキナリ男二人の昼食に誘うなんて……」
ジュリアンからバスケットを奪いながら嗜めるようにフェリクスは言った。
「そうかな。お前が上機嫌で女性といるなんて、滅多にない機会だから気を利かせたつもりだったんだが」
したり顔でそう返すジュリアンをフェリクスは軽く睨んだ。
「……勝手な気を回すな。彼女の名前も知らないくせに」
「あっ……そうだった。俺としたことが。フェリクス、お前はもちろん知っているんだろう?」
フェリクスからバスケットを奪い返しながら、ジュリアンはニヤリと笑った。
「……教えてくれないんなら、これは渡せないなあ?」
ジュリアンはふざけた様子でバスケットを自分の頭の上に掲げてしまう。
二人とも180センチを超える長身だが、ジュリアンの方が若干背が高い上、スラリとしたフェリクスに比べてやや筋肉質な体型をしている。
「……子供か!」
ややムッとした表情でフェリクスが毒づいた。
「ミレイ……ミレイ・ド・ルクリュ。子爵家の令嬢だ」
「ああ、ルクリュ子爵家かぁ……でも、あそこの令嬢は確か……?」
ほんのわずかに油断した隙を狙って、フェリクスがジュリアンの腕を捉えた。
「あッ!?」
「……フン、油断したな」
ジュリアンからバスケットを奪い取るとフェリクスはそのまま湖畔へ向かい、先ほど寝そべっていた場所に腰を下ろした。
バスケットを開け、さっとナプキンで手を拭うとバケット・サンドイッチを手に取ってかぶりつく。
そうやって青年らしい粗野な動作をしてみても、腰を下ろすしぐさ、サンドイッチをつまむ手つきにさえ、隠すことができない優雅さが漂っている。
「あああ……! 頼むから、同じ種類ばっかり食べるなよ。偏食なんだから」
口うるさくあれやこれやと言う割には、ジュリアンがフェリクスを見つめる瞳は温かい。
一つ年上のジュリアンはフェリクスの母方の伯爵家の親戚筋にあたり、年頃が近いこともあり幼いころからずっと親しくしてきた二人ははたから見れば兄弟のような親友のような関係に見える。
表面上の人付き合いはそつなくこなしても本来は社交嫌いなフェリクスの一番の、そして唯一の理解者であるジュリアンはこの間の舞踏会のようにメッセンジャーや代役を務めることもままある。
そんな彼が、ふと、フェリクスのある「変化」に気づき、少々戸惑っていた。
「あの……子爵令嬢、ミレイ嬢とはいつ知り合ったんだ?」
キラキラと輝く湖面を眺めながら、何気ない風を装ってジュリアンはフェリクスに尋ねた。
「知り合いというほどでもない。偶々、森の中で足を怪我して困っていたところを助けただけだ、……ドルンが」
照れ隠しからか、誤魔化すように最後に小声で愛犬の名前を呟くあたりが彼らしい。
「ドルンが……ねぇ」
湖を渡って吹く風が、前髪を軽く吹き上げ、頬を撫でて通り過ぎていく。
心地よい風に目を細めながら、ジュリアンはある「思いつき」に静かに考えを巡らせた。
「……おい、いいのか?」
しばらくしてからフェリクスがジュリアンに声をかけながら、バスケットの縁をちょんちょんと指でつついた。
「あ……!?」
我に返ったジュリアンはバスケットの中を急いで確認したが、時すでに遅しで彼の好物の魚の燻製のサンドイッチがなくなっている。
「っああああ~~!!」
「ボーっとしているお前が悪い」
澄ました顔で呟くとフェリクスはさっと立ち上がって思い切りのびをした。
「……そろそろ、戻るか」
気だるそうに髪をかき上げてそう呟く様は同性のジュリアンの目にもドキリとするくらい、なまめかしく美しく映った。
「ったく、仕方ないなぁ。でもまぁ、風も出てきたことだしな……」
渋々といった体で、ジュリアンも腰を上げながら先ほど思いついたある計画について考える。
……あの令嬢――ミレイ嬢か。試してみる価値はあるかもしれない。