アラサーですが異世界で婚活はじめます
31-5 侯爵令嬢のサロン
カードが……ない?
配られた三枚のカードの中に緑のお茶――緑茶を指す国名のカードはなかった。
カードを見つめて茫然としている美鈴のすぐ後ろ、カロリーヌはすでに答えを選び終えたらしい。
彼女が答えを選び終えたと同時に、二人を取り巻く令嬢たちのざわめきが今までになく大きくなっている。
――全く同じカードが二人に配られているのだろうか?……それとも。
そうであれば……答えは……。
カードを取るために伸ばした指先が、少しだけ震える。
まず、両端の二つの杯に対して二枚のカードを並べた。
そして最後のカードは……。
美鈴は最後のカードを最後に残った真ん中の茶器の前には置かず、そっと元の位置に伏せた。
周囲の令嬢のざわめきが、その瞬間一層大きくなった。
――これで、いい。
両手を膝の上に置いて、美鈴は軽く目を瞑った。
選んだ答えは、「相応しいカードがない」。
自分の選んだ答えに自信はあった。あとは、どんな結果になっても後悔はない――。
その時。
それまで事態を静観していたアリアンヌが二人の前に進み出た。
「……これは、面白いことになったわね」
背中合わせに座っている美鈴とカロリーヌを交互に見てからアリアンヌは言った。
「二つ目の杯の前にカードがない……二人とも、同じ答えを選ぶなんて」
アリアンヌのその言葉に、ハッとした美鈴は背後を振り返った。
カロリーヌもまた、驚きを露わに美鈴を見つめている。
「……二人に出したお茶をわたくしにもいただけないかしら?」
アリアンヌが、給仕を担当した召使いを振り返って命じた。
恐る恐る年若い召使いが盆にのせて運んできた杯を、優雅に手に取るとアリアンヌはすっと目を細めた。
「わたくしが事前に命じたのは」
よく通る声で静かに語るアリアンヌの口調には強い意志が込められていた。
「侯爵家が手に入れた選りすぐりの紅茶を、わたくしにも順番と組み合わせを明かさずに出す――そういうことだったはずよ」
お茶を手に持ったまま、アリアンヌはカロリーヌの座る席の前に歩を進めた。
「この――ヒスイ色のお茶は滅多に手に入らない希少なもの。……カロリーヌ、これが何か分かって?」
アリアンヌの問いに、カロリーヌは頬にいびつな笑いを浮かべながら頷いた。
「ええ……もちろんですわ。ジャポンの緑のお茶――!」
その答えに、アリアンヌは目を細めてゆっくりと頷いた。
「そう、その通りです。あなたの答えは正しいわ――」
しかし、次の瞬間彼女の青い瞳は氷のような冷たさを帯びて、カロリーヌに見つめていた。
「幻のお茶ともいわれるこのような品を手に入れるには――そうね。あなたのように東方貿易に縁が深い家柄でないと難しいでしょうね」
アリアンヌの言葉を聞いた瞬間、カロリーヌの顔がざっと青ざめた。
令嬢たちの視線が一気にカロリーヌに向けられ、なすすべのない彼女は肩を震わせて沈黙した。
「……興が冷めたわ。皆さま、今日はこれでお開きにしましょう。利き茶は中止よ」
配られた三枚のカードの中に緑のお茶――緑茶を指す国名のカードはなかった。
カードを見つめて茫然としている美鈴のすぐ後ろ、カロリーヌはすでに答えを選び終えたらしい。
彼女が答えを選び終えたと同時に、二人を取り巻く令嬢たちのざわめきが今までになく大きくなっている。
――全く同じカードが二人に配られているのだろうか?……それとも。
そうであれば……答えは……。
カードを取るために伸ばした指先が、少しだけ震える。
まず、両端の二つの杯に対して二枚のカードを並べた。
そして最後のカードは……。
美鈴は最後のカードを最後に残った真ん中の茶器の前には置かず、そっと元の位置に伏せた。
周囲の令嬢のざわめきが、その瞬間一層大きくなった。
――これで、いい。
両手を膝の上に置いて、美鈴は軽く目を瞑った。
選んだ答えは、「相応しいカードがない」。
自分の選んだ答えに自信はあった。あとは、どんな結果になっても後悔はない――。
その時。
それまで事態を静観していたアリアンヌが二人の前に進み出た。
「……これは、面白いことになったわね」
背中合わせに座っている美鈴とカロリーヌを交互に見てからアリアンヌは言った。
「二つ目の杯の前にカードがない……二人とも、同じ答えを選ぶなんて」
アリアンヌのその言葉に、ハッとした美鈴は背後を振り返った。
カロリーヌもまた、驚きを露わに美鈴を見つめている。
「……二人に出したお茶をわたくしにもいただけないかしら?」
アリアンヌが、給仕を担当した召使いを振り返って命じた。
恐る恐る年若い召使いが盆にのせて運んできた杯を、優雅に手に取るとアリアンヌはすっと目を細めた。
「わたくしが事前に命じたのは」
よく通る声で静かに語るアリアンヌの口調には強い意志が込められていた。
「侯爵家が手に入れた選りすぐりの紅茶を、わたくしにも順番と組み合わせを明かさずに出す――そういうことだったはずよ」
お茶を手に持ったまま、アリアンヌはカロリーヌの座る席の前に歩を進めた。
「この――ヒスイ色のお茶は滅多に手に入らない希少なもの。……カロリーヌ、これが何か分かって?」
アリアンヌの問いに、カロリーヌは頬にいびつな笑いを浮かべながら頷いた。
「ええ……もちろんですわ。ジャポンの緑のお茶――!」
その答えに、アリアンヌは目を細めてゆっくりと頷いた。
「そう、その通りです。あなたの答えは正しいわ――」
しかし、次の瞬間彼女の青い瞳は氷のような冷たさを帯びて、カロリーヌに見つめていた。
「幻のお茶ともいわれるこのような品を手に入れるには――そうね。あなたのように東方貿易に縁が深い家柄でないと難しいでしょうね」
アリアンヌの言葉を聞いた瞬間、カロリーヌの顔がざっと青ざめた。
令嬢たちの視線が一気にカロリーヌに向けられ、なすすべのない彼女は肩を震わせて沈黙した。
「……興が冷めたわ。皆さま、今日はこれでお開きにしましょう。利き茶は中止よ」