アラサーですが異世界で婚活はじめます
32 宮廷歌劇場
その夜、フランツ王国の首都 パリスイの宮廷劇場に面した大通りは上級貴族たちの豪華絢爛な馬車で溢れかえっていた。
馬車が車寄せに到着するたびに、この特別な晩のために装いを凝らした高貴な人々が優雅な足取りで降り立ち劇場の中に吸い込まれていく。
今宵はフランツ王国の宮廷劇場で歌劇が催されることになっている。
国王を筆頭に上級貴族たちが多額の資金を投じて催される宮廷歌劇は年に一度、秋の初めに催される。
この日、宮廷劇場でオペラを鑑賞できるのは出資者達から招待された者だけ――パリスイ広しと言えどもほんの一握りの特別な人々だけだ。
この日のために誂えた最上級の衣装を身にまとった招待客たちがファッションショーさながらに入り口からホールへ闊歩していく。
歩くたびにふんわりと揺れる見事な羽根飾り
小粒のダイヤモンドがちりばめられたバラ色のショール
見事な絹地に金糸銀糸で刺繍を施した燕尾服
劇場のロビーはひときわ華やかな装いの招待客たちで溢れていた。
クリスタルのシャンデリアがいくつも瞬く劇場の入り口に降り立ったと同時に、美鈴は絢爛豪華な世界に目を奪われた。
正面の入り口を入ってすぐに広々としたホールがあり、そこを抜けると幕間に使用される休憩室につながる大階段がそびえたっている。
ホールの床はもちろん、大階段や欄干、柱の一本一本まで、色とりどりの大理石で埋め尽くされている。
シャンデリアが放つ眩い煌めき、柱の一つ一つに備え付けられたスズランのような形のランプの幻想的な光が夢のような空間を演出していた。
フランツ王国の王室が誇る宮廷劇場は、現国王 アンリ五世の祖父の発案で着工され、先代国王によって完成された国の宝ともいうべき劇場だ。
そのような光景を目の当たりにしながら、美鈴にはゆったりと周りを眺めている暇もない。
宮廷劇場で催されるオペラそのものと同じか、それ以上に催しの前後の社交は、貴族たちにとって重要なものだ。
会場に到着して早々、美鈴もルクリュ子爵夫妻と共に挨拶まわりに向かわなければならなかった。
次々に到着する招待客でごった返すこの時間帯、さすがに主催者側の上級貴族たちはロビーには姿を見せておらず、フェリクスの姿も見当たらなった。
恐らく幕間の休憩時間、あるいは公演の終了後に改めて姿を現すのだろうと美鈴は思った。
歌劇の開演時間が近づいてもなお、貴族たちの世間話は止まない。開演間近になってようやく、観覧席に向かって移動を始める。
ロビーの華やかさもさることながら、主役となる劇場は華やかさに加えて宮廷劇場らしい厳かな雰囲気をそなえていた。
深紅のどっしりとした緞帳が舞台を覆っている。
円形の天井は四季を描いた美しい絵画で彩られ、中央には数えきれないほどのクリスタルで飾られた巨大なシャンデリアが吊り下げられていた。
四層にもなるバルコニーは小さな部屋のように区切られ、その一つ一つが個室になっている。
二層目の舞台の袖に位置する、カーテンで覆われた個室が王族専用の観覧席なのだとルクリュ子爵夫人が教えてくれた。
舞台の袖にあたる個室は、会場からの視線を浴びる特等席であるため、家柄と富を兼ね備えた上級貴族が使用を許されている。
――この広い会場のどこかに、フェリクスがいる。
あれだけ目立つ容姿ではあっても、こうまで多くの人が詰めかけた会場ではオペラグラスでぐるりと見回しても、彼の姿を見つけるのは容易ではない。
『結婚を申し込みたい女性がいる――』
侯爵邸でアリアンヌから聞いた、フェリクスの言葉があれ以来ずっと気にかかっていた。
なんとかして、今夜彼に会いたい――。
祈るような気持ちで美鈴はフェリクスの姿を探し続けた。
馬車が車寄せに到着するたびに、この特別な晩のために装いを凝らした高貴な人々が優雅な足取りで降り立ち劇場の中に吸い込まれていく。
今宵はフランツ王国の宮廷劇場で歌劇が催されることになっている。
国王を筆頭に上級貴族たちが多額の資金を投じて催される宮廷歌劇は年に一度、秋の初めに催される。
この日、宮廷劇場でオペラを鑑賞できるのは出資者達から招待された者だけ――パリスイ広しと言えどもほんの一握りの特別な人々だけだ。
この日のために誂えた最上級の衣装を身にまとった招待客たちがファッションショーさながらに入り口からホールへ闊歩していく。
歩くたびにふんわりと揺れる見事な羽根飾り
小粒のダイヤモンドがちりばめられたバラ色のショール
見事な絹地に金糸銀糸で刺繍を施した燕尾服
劇場のロビーはひときわ華やかな装いの招待客たちで溢れていた。
クリスタルのシャンデリアがいくつも瞬く劇場の入り口に降り立ったと同時に、美鈴は絢爛豪華な世界に目を奪われた。
正面の入り口を入ってすぐに広々としたホールがあり、そこを抜けると幕間に使用される休憩室につながる大階段がそびえたっている。
ホールの床はもちろん、大階段や欄干、柱の一本一本まで、色とりどりの大理石で埋め尽くされている。
シャンデリアが放つ眩い煌めき、柱の一つ一つに備え付けられたスズランのような形のランプの幻想的な光が夢のような空間を演出していた。
フランツ王国の王室が誇る宮廷劇場は、現国王 アンリ五世の祖父の発案で着工され、先代国王によって完成された国の宝ともいうべき劇場だ。
そのような光景を目の当たりにしながら、美鈴にはゆったりと周りを眺めている暇もない。
宮廷劇場で催されるオペラそのものと同じか、それ以上に催しの前後の社交は、貴族たちにとって重要なものだ。
会場に到着して早々、美鈴もルクリュ子爵夫妻と共に挨拶まわりに向かわなければならなかった。
次々に到着する招待客でごった返すこの時間帯、さすがに主催者側の上級貴族たちはロビーには姿を見せておらず、フェリクスの姿も見当たらなった。
恐らく幕間の休憩時間、あるいは公演の終了後に改めて姿を現すのだろうと美鈴は思った。
歌劇の開演時間が近づいてもなお、貴族たちの世間話は止まない。開演間近になってようやく、観覧席に向かって移動を始める。
ロビーの華やかさもさることながら、主役となる劇場は華やかさに加えて宮廷劇場らしい厳かな雰囲気をそなえていた。
深紅のどっしりとした緞帳が舞台を覆っている。
円形の天井は四季を描いた美しい絵画で彩られ、中央には数えきれないほどのクリスタルで飾られた巨大なシャンデリアが吊り下げられていた。
四層にもなるバルコニーは小さな部屋のように区切られ、その一つ一つが個室になっている。
二層目の舞台の袖に位置する、カーテンで覆われた個室が王族専用の観覧席なのだとルクリュ子爵夫人が教えてくれた。
舞台の袖にあたる個室は、会場からの視線を浴びる特等席であるため、家柄と富を兼ね備えた上級貴族が使用を許されている。
――この広い会場のどこかに、フェリクスがいる。
あれだけ目立つ容姿ではあっても、こうまで多くの人が詰めかけた会場ではオペラグラスでぐるりと見回しても、彼の姿を見つけるのは容易ではない。
『結婚を申し込みたい女性がいる――』
侯爵邸でアリアンヌから聞いた、フェリクスの言葉があれ以来ずっと気にかかっていた。
なんとかして、今夜彼に会いたい――。
祈るような気持ちで美鈴はフェリクスの姿を探し続けた。