アラサーですが異世界で婚活はじめます
 美鈴は、もう一度深く、深く息を吐いた……気持ちを落ち着けるために。
 俯くと、いやおうなしに自分の装い(すがた)が目に入る。

 デコルテを露わにしたイブニングドレス!

 美鈴のような現代日本に生きる一般庶民にとっては、映画などで目にすることはあっても生涯着る機会などないであろうシロモノだろう。

 しかし、このドレスは彼女にとって初めての……まさか自分が参加することになるとは想像すらしなかった、あるイベントのため特別にあつらえられたものだった。

「……」

 美鈴はそっと窓辺から離れて、意を決したような表情で部屋に設えられている大きな姿見の前にソロリソロリと歩を進めた。

 鏡の中には、今までにみたことのない自分の姿――髪は緩く編まれて丁寧に結い上げられており、露わになった細い首からなめらかに続くデコルテは白く輝いていた。

 デコルテの下、オールドローズのドレスの胸元はこれでもかと寄せて上げられ、柔らかな膨らみが強調されている。

 羞じらいに頬をかすかに染めて、美鈴はすぐに鏡に背を向けた。

 日本にいた頃、美鈴は一分の隙もないカッチリとしたデザインの紺かグレーのダークカラースーツで通勤していた。
 スーツに合わせるのは常に襟付きのシャツで、プライベートでも襟ぐりの開いたカットソーを着ることはめったになかった。

 たった3か月前のことなのに、遥か昔に感じられる「以前の自分」を思い出しながら、美鈴は鏡の中の自分をうつろな目で見つめた。
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