アラサーですが異世界で婚活はじめます
「お疲れでしょう、私の家はもうすぐそこです。ご安心を」

 フェリクスが片手で示したその建物は、周辺の正面部分(ファサード)を豪奢に飾り立てた邸宅と較べると一見簡素な外観をしているが、体面を重んじる階級の人間が陥りがちな成金趣味の装飾とは一線を画していた。

 住居部分はやや小さめに造られているものの、前庭が広く、白で統一された外壁と正面玄関上の小造りなバルコニーに対して青緑の銅版葺(どうばんぶ)きのような屋根のコントラスが爽やかな印象の住宅だった。

「……ちょうど先ほどまで友人が来ていたのですが、今は私一人だけです。……どうぞ気兼ねなく」

 ……ということは、この館には召使いもいない、彼一人きり……ということ?

 伯爵家の息子が、召使いの一人も置かずに別邸にいるなんて……。

 あくまで紳士的な物腰で正面玄関のドアを開き、美鈴に中に入るよう促すフェリクスに、美鈴は一抹の不安を感じずにいられなかった。
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