アラサーですが異世界で婚活はじめます
 そう言ってフェリクスは椅子に座った美鈴の前に(ひざまず)き、片手を彼女の足元に差し出した。

 ……まさか、伯爵は……本当に自分で、わたしの足の手当てをする気でいるの……?

 この世界の貴族階級の身分制度や、女性の、普段は長いスカートで隠されている足を男性に(さら)すことにどんな意味があるのか、美鈴がこの2か月の間必死で覚えた知識が頭をぐるぐる回る。

 貴族の場合、こういった軽い怪我の手当ては召使いが行うのが普通だ。
 しかも、女性の身体に触れるとなれば、当然女性の召使いが世話をすることになる。

 しかし、「なぜか」人払いをしている彼の家では、手当をできる人間は彼しかいない……のだが。

 一体この場合、どう振舞うのが「正解」なのだろう……。
 
 相手はルクリュ子爵家よりも身分が上の伯爵家……。

 自分の中に答えを見いだせず、途方に暮れた美鈴は思わずフェリクスの瞳を(じか)に見つめてしまった。

 先ほど森で「神に誓って」と宣誓(せんせい)した時と同じ、真剣なフェリクスの眼差しが美鈴に向けられていた。

「……すみません……アルノー伯爵……いえ、フェリクス様にこんな……」

 顔を赤らめて(うつむ)いた美鈴に、フェリクスは柔らかい紳士的な微笑みで応じた。

「……大丈夫です。私に、お任せを。ただ、痛みを感じたらすぐに教えてください」

 ためらいながらもそっと差し出された美鈴の脚を片手で支え、慎重に靴を脱がすと、幸いみずぶくれはできていないものの、つま先と(かかと)部分が赤くなった美鈴の足を、フェリクスは慎重に湯桶(ゆおけ)の水に浸した。
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