アラサーですが異世界で婚活はじめます
01 温かい手と無礼な男
もう二度と、目を覚ますことはない……そう思っていたのに。
 ふわふわと夢の中を漂うような浮遊感の後、一気に現実に引き戻されるような感覚。

 目蓋(まぶた)に光を感じて、美鈴はゆっくりと目を開いた。
 目の前には、ヨーロッパ系だろうか、心配そうにのぞき込んでいる外国人の男女……。

 品のよいダークグリーンのドレスに身を包んだ中年の女性はなぜか、目に涙を浮かべていた。

「ミレーヌ、おお、あなた!ミレーヌが目を開けたわ!!」

 あなた、と呼ばれた夫と思われる男性も瞳を潤ませて頷いた。

「本当に、あの子に生き写しだ……。あれが、もし生きていれば……!」

 この男性も夫人と同様にクラシックでフォーマルなスーツを着ている。

 混乱で頭がクラクラする。駅の階段から落ちて……奇跡的に助かったのだろうか?

 徐々に感覚が戻ってきて、痛みなどは全く感じないかわりに、体全体が今まで経験したことのないくらい重く感じられた。

「リオネル! このお嬢さんを中に運んであげてちょうだい」

「はい。 叔父上、叔母様、ここは私にお任せを……」

 とても大きな、温かい手……その手はこわれものを扱うような手つきで美鈴の肩に手を添え、優しく抱きおこした。

 力強い腕がひざ下をしっかりと抱え込み、ふわりと、まるで空気を抱いているかのように軽やかに美鈴を抱き上げた。

 霧がかかったような記憶の中で、その瞬間だけははっきりと覚えている。

 美鈴を抱き上げた「男」の顔が目の前に大写しになり、太く形のよい眉の下の、印象的な瞳は美鈴の知る限り「ヘーゼル」とでも表現するのだろうか。

 温かみのあるグリーンとブラウンが複雑に混ざったその瞳が、まぶしいものでも見たように細められ、男は整った口元を崩して、まるでいたずら好きの子供のようにニーッと笑った。
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