アラサーですが異世界で婚活はじめます
 美鈴を抱き寄せるフリをしながら、男が美鈴の耳に唇を寄せる。

「……はじめ見た時は華奢に見えたが…なかなか魅力的なボディーラインでいらっしゃる」

 美鈴にしか聞こえないヴォリュームで、しかしはっきりと男は言い放った。男の熱い息が耳朶(みみたぶ)にかかる。

「……!!!」
 それが、初対面の人間に言う言葉……!?
 頭にかかった(もや)が一瞬で晴れた瞬間だった。

 ひっぱたいてやりたい……!

 自分でも意外なほどカッとなった美鈴はそう思ったが、体は重怠く、とても思うように動かせる状態ではなかった。

 玄関を入り、ホールを抜け……勝手知ったる足取りで男は屋敷の中を進んでいき、羽をふわりと落とすように、美鈴を客室のベッドに横たえた。

 温かい手が、美鈴の額に触れ、ゆっくりと前髪をかき上げる。

 見知らぬ男性に触れられて反射的に身を固くした美鈴を見つめる男の顔から、先ほどの好色そうな表情が消えていた。

 美鈴の緊張を解きほぐそうとしているのか、男は優し気な瞳で美鈴を見つめながら労わるように頭を撫で続けた。

 ……?この男、一体なんなの……?

 先の一瞬あれほど不快感を感じたにも関わらず、されるがままになっている自分に美鈴は戸惑いを感じていた。

 しかし、それもつかの間、しばらくすると強烈な眠気と倦怠感が襲いかかってきて、 目蓋(まぶた)は重く、指先は甘くしびれたように気怠くなっていき、ついには眠りの中に引き込まれてしまった。

 再び美鈴が目を覚ますと、美鈴の前で涙ぐんでいた男女 ―― この家の主人であるクラシックな装いの紳士とその奥方が美鈴の枕元にやってきた。
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