アラサーですが異世界で婚活はじめます
 さらに、フェリクスの父は若い頃から勤勉で頭脳明晰な人物として知られており、様々な新興産業が勃興(ぼっこう)しているフランツ王国で今後発展が見込まれる事業を天性の勘で見定め、自動車や重工業への投資で莫大な利益を得えているのだという。

 森へ行った翌日、ルクリュ子爵と当事者でもあるリオネルが、早速御礼の品をもってアルノー邸を訪ねて行ったのだが、フェリクスは「当然のことをしたまで」と笑って御礼の品を丁重に断ったと聞いている。

 夫人からアルノー家について概要を得た美鈴だったが、森で出会ってから別邸で手当をしてもらった時のフェリクスのあの振る舞い……。

 彼が本物の紳士であることを確信している美鈴だったが、名門貴族の一員である彼が「伯爵」と呼ばれることを嫌がり、自らの身分に全く無頓着(むとんちゃく)な態度を見せたことに対する不可解な印象は(ぬぐ)い難いものがあった。

 ……今夜、あの人も、舞踏会に参加するはず、でも……。

 (みずか)らこの間の礼を言いたくても、由緒正しい伯爵家の地位に加えて華やかな美貌に恵まれた(きら)びやかな若者が、社交界の中心人物であることは間違いないだろう。

 きっと、舞踏会では大勢の令嬢に取り囲まれるであろう彼に、近寄ることさえできないのではないか……。

 そんなことを考えながら、美鈴は今夜の舞踏会に備えて、もうひと眠りするためにベッドに横になったが、一度朝日を浴び、完全に覚醒してしまった後、再び寝付くのは容易でなかった。

 何度も寝返りをうって、ようやくウトウトとしかけた頃、ふと、あの日のリオネルの顔が頭に浮かんできた。

 馬車で森から帰った後、美鈴を抱いて屋敷の中を早足でズカズカと進んだ彼は、この部屋――美鈴の寝室までやってくると、初めて彼女に出会った時と全く同じように、丁寧にゆっくりと彼女をベッドの上に降ろした。

「……足を、見せてもらえないか?」
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