アラサーですが異世界で婚活はじめます
街で流行っている曲なのだろうか。どこか聞き覚えのあるメロディーに美鈴は耳を澄ませた。

ルクリュ子爵夫人と出かけたパリスイの中心街でも、辻音楽師がこの曲を演奏しているのを確かに何度か耳にしたように思う。

バラ色の人生……

今までの自分の人生とはなんと大きな隔たりがあることだろう。

再びため息をついてしまいそうになった美鈴だったが、ジャネットをこれ以上心配させないよう、彼女を振り返って美鈴は精一杯の笑顔をみせた。


同日、夕刻……

夏の期間、日暮れの遅いこの国では、夜9時頃になってやっと、ゆっくりと陽が暮れかける。

貴族たちの夜会が始まるのはほとんどの場合が日没後、太陽が沈みきり、夜空に星が瞬く時間帯になってからのことだ。

つい先日、リオネルがドレスの最終調整にやってきた時には、分厚いカーテンに隠れるようにして、彼が前庭を歩いてくるのを恐々と見ていた美鈴だった。

しかし今日の彼女は、夜会用の煌びやかな燕尾服に身を包み、何かの箱を小脇に挟んで、いかにも愉し気に前庭を歩いてくるリオネルを、同じ窓辺に立ってじっと見つめていた。

室内から漏れる灯りで、当然、リオネルには美鈴の姿がはっきりと見えている。

リオネルは美鈴の視線に気づくと、優雅な動作でシルクハットを脱ぎ、うやうやしく窓辺の美鈴に会釈してみせる。
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