アラサーですが異世界で婚活はじめます
彼が屋敷の中に消えてからしばらくして、いつものように規則正しくリズミカルな足音が廊下から聞こえてきた。

美鈴の部屋の扉がノックされると、扉の脇に控えていたジャネットがリオネルを部屋に招き入れる。

「……こんばんは、ミレイ嬢。いつにもまして美しい君のため、神は今宵、美しい星空を我らにお与えになった……! そう、思わないか?ジャネット」

いかにも彼らしい詩人のような大仰な賛辞も、ジャネットにとっては慣れたものだった。

「わたくしも、そう思います。今日のお嬢様は一段と輝いておられますわ」

リオネルはジャネットの返答に満足そうに頷くと、ゆっくりした歩調で窓辺の美鈴に近づいた。

「リオネル……ありがとう、ございます。先日は……アルノー伯のことも、いただいた新しい靴も……」

いつもの冷淡な態度ではなく、リオネルの瞳を見つめながらたどたどしく礼を言う美鈴を、リオネルは口の端に笑みを湛え、眩しいものを見るように目を細めて見つめ返している。

室内灯の揺らめくオレンジ色の温かな光が、見つめあう二人の姿を柔らかく照らし出している。

「お嬢様のお支度は、すべて済ませております。あとは……リオネル様、よろしくお願いいたします」

「失礼いたします」そう言って軽く会釈してから美鈴に軽く微笑んでみせるとジャネットはさっと踵を返して次の間に下がってしまった。

ドアの閉まる音を聞いて数秒後、窓辺の美鈴に向かってリオネルが二歩、三歩と、彼にしては少し遠慮がちに近づいた。

ゆっくりと差し出されたリオネルの手に美鈴が手を重ねると、リオネルはややほっとしたような表情をみせた。

「ミレイ、……ジャネットが気を利かせてくれたらしい。舞踏会の支度の最後の仕上げは俺にさせてくれないか?」

真っすぐに美鈴の瞳を見据えながら、リオネルは美鈴に尋ねた。

「え……ええ、でも、仕上げって……?」
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