アラサーですが異世界で婚活はじめます
 二人が語るところによると、どうやら美鈴は紳士の屋敷の庭に突然現れたということだった。

 芝草の上に横たわる美鈴を見つけたのは、リオネル……美鈴を抱き上げ、屋敷の客間に運んだ男だと夫妻は語った。

「リオネルに呼ばれて……貴女を初めて見た時、本当に驚きましたわ。まるであの娘が生き返ったのかと……」

 かつて 二人には 「ミレーヌ」という愛娘がいたのだが、不幸な事故で14年前に亡くなったという。
 美鈴は姿かたちだけでなく声までもが、その娘に生き写しだというのだ。

 いくら娘に似ているとはいえ、赤の他人である自分を親切に介抱してくれた夫妻に、美鈴は深く頭を下げた。

「……すみません、ここに来るまでのことを覚えていなくて……。本当に、ご親切にありがとうございました」

 階段を踏み外したのは、間違いなくあの駅だった……。
 駅の構内ならいざしらず、なぜ、会ったこともない他人の庭に倒れていたのか……。

 腑に落ちないことだらけだったが、見るからに善良そうな夫妻が嘘をついているとも思えなかった。

 この親切な夫妻には、後日改めて訪問して心からお礼を述べたいと思う。でも、まずは一刻も早く帰社しなければならない。

 窓の外の日はすでに傾いていており、西日が差す窓越しに空に高く響く鐘のような音が聞こえてきた。

 教会……が近くにあるのだろうか……。

「……あの、ここは東京……ですよね。何区ですか……?」
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