アラサーですが異世界で婚活はじめます
「そこまで言うのなら……君を信じよう」

 彼女の返事に一応は満足したそぶりで、リオネルはやっと身を引いて正面に向き直った。

 そのリオネルの態度――まるで美鈴が「自分の女」だと言わんばかりの――強気な振る舞いに、美鈴の胸にはモヤモヤとした感情が広がっていく。

 美鈴がこの世界に来てから、ルクリュ子爵の甥である彼には様々な場面で世話になってきたことは百も承知している。

 舞踏会衣装の見立てや、先日の森での一件、そして今夜舞踏会のエスコート役を務めてくれている彼に対して感謝の念を抱きつつも、こうして時折見せる強引な態度にはつい反発を感じてしまう美鈴だった。

『君のことを知りたい』
と言いながら、自分が美鈴をどう思っているのか……その核心には触れないリオネルに不安を感じているせいもあった。

 侍女のジャネットの言う通りいつも飄々(ひょうひょう)としているリオネルの真意を掴むのは、人一倍男女の機微に疎い美鈴には至難の業のように思える。

 美鈴が思いを巡らしている最中にも、侯爵夫人への謁見を待つ人の列はゆっくりと前に進みつつあった。

 先ほどは広間の中ほどに居たあの青年……ジュリアンも今は最前列から二、三列目というところに静かに佇んでいるのが見える。

 突然、彼のいる最前列の方からざわめきが起こり、美しく着飾った従僕たちがせわし気に来客たちが待つ第一の間に駆けこんできた。

 屋敷の従僕達が左右に居並ぶ中、ダマスク織のような美しいモチーフが反復された、灯りに照らされて金色に輝くエレガントなドレスに身を包んだ女性が、第二の間に通じる扉からこちらに向かって歩いてくるのが見える。
 
 ジュリアンや美鈴たちが控えていた第一の間に、フォンテーヌ侯爵夫人その人が姿を現した瞬間だった。
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