アラサーですが異世界で婚活はじめます
 ただでさえ想像以上に華やかな舞踏会場の雰囲気に飲まれそうになっていた美鈴だったが、並みいる貴族たちの中でもひときわ輝きを放つ侯爵夫人の優雅な身のこなしに見惚れて、危うく習い覚えた礼儀作法も忘れて立ち尽くすところだった。
 
まるで、映画を見ているような感覚、自分が自分でないような……夢うつつの状態にも似た不思議な感覚に(おちい)りながら、美鈴はこの場に立っているのがやっとのような気さえしはじめていた。

「格別に美しい方をわが家にお迎えできて、光栄ですわ。バイエ殿、ミレイ様、お二人とも今夜はどうぞ心ゆくまで楽しんでいらしてね」

「フォンテーヌ侯爵夫人……こちらこそこのような華やかな会へ、お招きにあずかり光栄です」

 すぐ隣に並んで立つリオネルの返答をどこかうわの空に聞きながら、美鈴は会釈をして次の招待客のところへ向かう侯爵夫人の後姿を茫然(ぼうぜん)と見送った。

「ミレイ……大丈夫か? もうすぐ円舞曲がはじまるぞ」

 初めて見る大貴族の舞踏会の様子に美鈴が圧倒されていることに気づきながらも、さりげなく彼女を見守り続けてきたリオネルがさすがに心配になったのか控えめに声をかけた。

 リオネルの温かく大きな手が両肩を包み込み、舞踏会場の光を受けて輝くヘーゼルグリーンの瞳が、美鈴の瞳を(のぞ)き込む。
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