アラサーですが異世界で婚活はじめます
 その間にも楽隊は次の演奏曲のための準備を入念に進め、最初の円舞曲に参加する人々はパートナーと手を取り合い、ゆったりとした足取りで広間の中央に進み出ていく。

「リ、リオネル……わたし」

 気の強い彼女には珍しく美鈴が明らかな動揺を見せたその時。

 肩に置かれていたリオネルの手が、そっと彼女の頬に添えられた。

「……ミレイ、いいか、よく聞いてくれ」

 ゆっくりと言い聞かせるように、リオネルは美鈴に囁くように語りかける。

「思い出してくれ、鏡の中の自分の姿を。この場にいる令嬢の中でもとびぬけて美しい君の真珠のような(すべ)らかな肌……」

 リオネルの手の指先から彼の身体に流れる熱い血の温もりが、美鈴の緊張で冷えた頬に伝わってくる。

「ここにいる貴婦人達の誰にも、気後(きおくれ)れすることはない。それどころか、君が望めば……君はもっと美しくなれる」

 美鈴の頬を長い指でそっと撫でてから、リオネルは美鈴の耳元に唇を寄せて呟いた。
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