アラサーですが異世界で婚活はじめます
「あら……! そこにいらっしゃるのは、ミレイ様ね。この間、森でお会いして以来ですわね」

 舞踏会場よりもいくらか照明が抑えられた、休憩用の椅子が並ぶその部屋の入り口に佇むアリアンヌの姿は、眩いホールの光を受けて輝いているように見える。

 公爵令嬢 アリアンヌは優美な微笑みを口元に浮かべて、美鈴をまっすぐに見据えながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「ごきげんよう……。パリスイでの舞踏会は初めてでいらっしゃるのよね? 先ほどは見事なダンスでしたわ」

 純白の手袋をつけた片手で、貴婦人用の背の低い布張りの椅子を示し、美鈴に座るように勧めながら、アリアンヌも隣に腰かける。

「いえ……こんな華やかな会は、初めてで……。緊張してしまって」

 アリアンヌの賛辞に対して、正直な感想を口にした美鈴だったが、舞踏会の開始を彩ったアリアンヌの見事な舞を思い出し、彼女の瞳を見つめた。

「アリアンヌ様の舞踊こそ……素晴らしかったです。あんなに大勢の人が見ている中、とても優雅でそれでいて自然で……」

「ふふふ……。あなたに、そう言っていただけて嬉しいわ。社交界デビューして以来、何度も踊っている舞だもの……ね。今更、緊張することもないし」

 先ほど、大勢の観客たちを魅了した、天使のような笑顔を浮かべて、アリアンヌは美鈴の瞳をじっと見つめ返した。

「……もう、ご存じだと思うけれど、フェリクスは事情があって今夜は来られないと言ってきたわ」

「……ええ。さきほど、お使いの方が見えたようで」

 アリアンヌの言葉に軽く頷きながら、美鈴は人混みの中で見たジュリアンの姿を思い浮かべた。

「ええ、ジュリアン・ド・ヴァンタール。アルノー伯爵家と血縁関係にある子爵家の御曹司よ。まだ、爵位は継いでいないけれどね。……あなた、ジュリアンとはもうお知り合いなのかしら?」
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