温かいこの場所で、君と

泣きながら言う夏羽に、「Gago！（馬鹿！）」とミゲルは怒鳴る。夏羽は体をびくりと震わせるが、ミゲルは優しく夏羽を抱きしめたままだった。

「Paano naman yan（そんなことどうだっていい）Ito ay ligtas at mabuti（無事でよかった）」

ミゲルの目に涙が浮かんでいるのを見て、夏羽の胸が恐怖とは違う痛みを発する。この痛みが何なのか、夏羽はわからない。ただ、ずっと痛い。

今日はもう帰ることになった。



家に帰っている間、夏羽とミゲルの間に会話はなかった。気まずさを夏羽は感じながらも、当然だと自分に言う。

勝手にミゲルから離れ、財布を無くしてしまったのだ。ミゲルが怒ったりするのも当たり前だ。

「夏羽、どうしたの？デートは夕方まで帰ってこないんじゃ……」

家に帰ると、音楽を聴いていたメロディが驚く。夏羽は「うん、ちょっとね……」と言って部屋にこもる。

この場所は温かいはずなのに、夏羽の心だけ冷たい。ミゲルが知っている感情を、夏羽は知らない。それが何よりも冷たかった。