relationship
お嬢ちゃん、お嬢ちゃん

友達を待つ私に誰かが声をかけてきた。同級生でも上級生でもないことは確かだ。お嬢ちゃん、なんて、呼び方はしない。それに先生でもない。低い男の声で、若い人の様な軽快さと落ち着き払った老齢さが入り交じっている。聞いたことがない声に、戸惑いが思わず口から溢れそうになるのをなんとか押しとどめた。

ぼうっと突っ立って空を見ていた視線をさっと声の主に向けた。

思った通り、知らない、見たことがない人物だった。人の良さそうな笑顔を浮かべている。だいたい二十後半から三十前半。値が張りそうな紺のスーツをきて、三つ程シャツのボタンを開けている。シルバーの蜥蜴(とかげ)のタイピンが一際目立っていた。

私の横に人一人分の間を開けて同じように男は突っ立った。香水に紛れて煙草の臭いがした。
どうして話しかけてきたんだと疑問に思ったが、男は何も言うことはなかった。さっきの私と同じように空を見上げている。私はどうしていいか分からず、男を視界の端に追いやりまた空を見上げた。

「俺の、いやウチのも」

突然男が口を開いた。
不思議に思い頭だけを向けると目が合った。

「通ってんだけど、手がかかる奴で。今はそいつを待ってるんだけど、お嬢ちゃんは誰待ち?」

兄弟か従兄弟だろうか。内容がうまく飲み込めず、というよりコミュニケーション不足で咄嗟に言葉が出てしまう。

「それは、…随分大変ですね」

男の問いかけを理解できたのは言葉を発した後だった。どうしてこんなことを言ったのか内心頭を抱える。心臓が暴れている。全く、酷い言葉だ。
元来私は人とのやりとりが苦手、いいや嫌い。
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