5時からはじまる甘い罠。



「さっきもやった問題だけど」



「……そう?」



「うん」



間髪入れずに頷くと、栞菜はしょんぼりした。


彼女はどうやら、数学が苦手らしい。


一つ問題をとくごとに、頭からぷすぷす音がしそうなほど悩んでいる。


だけど、なんにでも一生懸命な栞菜は、どんなに難しい問題でも、最後まで諦めない。


解けなくても、俺の解説を一心に聞く。


理解できるまで、なんども説明してやると、わかった!と嬉しそうに顔を緩める。


彼女は、教えがいのあるいい生徒だった。


そしてこういう真面目さというか、健気なところが俺の、彼女の一番好きなところだ。


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