5時からはじまる甘い罠。
第1話
季節は巡って10月。入学してから6ヶ月。
「わらし、そこどいてよ。通れないじゃん」
気の強そうなクラスの女子にそう言われたわたしは、
無言で立ち上がると、机を持ち上げて自分の席を後ろに移動させた。
「さんきゅ、わらし」
「わらしごめんねー、この子がでかいから」
「ちょっと、失礼くない?
確かに太りましたけどー」
ケタケタと笑う女子たちは、わたしの前の席に椅子を並べて陣取ると、わたしなど見えていないように楽しそうに話している。
こんなとき何も言わずに、うつむいてその場をやり過ごすのはいつものことだ。
「てか、この子の名前、わらしってマジ?
付けた親やばくね」
グループの1人(見たことがないので別のクラスの女子らしい)の子がわたしを振り返って尋ねると、他の2人は声をあげて笑った。
「いや、違くて。
座敷わらしみたいだから、みんな‘わらし’って呼んでるだけだし」
「あんた、バカじゃん。そんな名前の人居るわけないでしょ!」
「ふーん。でもなんか変わってんね、この人」
それきり3人は私を気にすることもなく、話題は駅前に新しくできたタピオカショップのことに移ったようだった。
わたしは読書するふりをしながら、内心深いため息をついた。