5時からはじまる甘い罠。



「きみ、なにも知らないんでしょ。

だから勘違いしてるんじゃないかって思ってさ」



「あんたは更科にとって特別でもなんでもないんだよ。

この子がいるんだから。

……ね?」




呼ばれた女の人は、首を傾げて微笑んだ。


わたしを取り囲む集団の、後ろの方にいて、


決して激しく罵ってこない人。


細くて、白くて、儚い。







《女の子って、すぐ怒るくせに、言いたいことはなにも言ってくれない》







2人でハンバーグを食べた日の、廉くんのどこか寂しげな言葉が、目の前の華奢な女の人に重なった。






「わたし、廉と付き合ってたの。

わたしから振ったんだ。

…別れたこと、ずっと後悔してる」



たぶん、廉も。


と付け加えた彼女の声は、想像どおりに綺麗だった。



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