real feel
父の懺悔を聞きながら、分かった事がある。
それは、傷ついたのは麗花さんや母や私だけじゃない。
父だって私たちと同じように、傷を負っているということ。
愛する人たちを傷つけてしまったと、後悔の念に駆られながら生きてきたのだろうと……。
今の少しだけ大人になった私だから、分かるんだと思う。

「まひろ、これだけは信じて欲しいんだ。お前は幸せを略奪なんてしていない。むしろ私たちに最高の幸せを与えてくれたんだよ」

わ、私が?

「でも、麗花さんは……」

「彼女がどういう風に話したのか知らないが、まひろが母さんのお腹に命を授かった事はみんなにとって幸せな出来事だったんだよ。みんなから祝福されて生まれてきたんだよ、まひろ……」

…………良かった!
私は、生まれてきて良かったんだね。
主任が言ってくれた通りだった。

隣に座っている主任が、繋いでいない方の手でハンカチを取り出して私の頬に当ててくれた。
自分でも気が付かないうちに、涙で頬を濡らしていたらしい。

麗花さんとの再婚についても、全てに納得できたわけではないけど、大人の事情があったということは理解できた。
麗花さんが契約の10年が経って離婚を申し出たということは、もう父に縛られず自分自身で幸せを模索し始めたのだろう。
本宮先生と幸せになってくれたらと願っていいんだよね。

「まひろ。私が佐伯さんにまひろと付き合う上で約束してほしいとお願いしたことがあるんだけど、佐伯さんから何か聞いてる?」

あ……。
主任が言ってた、あの約束のこと。

「私たちの経験を踏まえて、やっぱり順番は守るべきだったと思い知ったの。だからあなたたちには後悔してほしくなくて、約束してもらったのよ。同じようなことにはならないとしても、順番を守ることは大事だと身に染みたから……」

「あっあのね、お母さん」

母の話を聞きながらつい割り込もうとした私の言葉を、主任が視線で制した。

「お母さんとお父さんに話したいことがあります」

私から言わなきゃと思っていたのに、言わせてもらえなかった。
主任……責任を感じているの?
私の身体なんだから、私自身がもっとしっかりしないといけなかったのに。

< 112 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop