real feel
「実は先日、2人で一緒に産婦人科を受診してきました」

母と父は心底驚いたように顔を見合わせた後、私たちの方に向き直った。

「まひろ……!あなた、まさか」

母の驚愕と心配と労りが混じったような視線が痛い。
父は驚きを隠せないものの、取り乱したりせずにじっと黙って私たちを見ている。
自分の口で説明したいのに、言葉が上手く出てこない。
そんな私の心の内を知ってか知らずか、主任が当たり前のように話し出した。

「お母さんとの約束があるし、それでなくても避妊には気を使っていたつもりです。まひろさんの身体に負担を強いるような真似はしたくないので。だけど避妊も絶対大丈夫とは言い切れないのが正直なところです」

母は茫然とした様子で、口をつぐんでいる。
そんな母に代わって父が私たちに問いかけた。

「病院に行ったということは確信があったからなのか?事前に薬局で検査薬を買って試したとか」

「それも考えましたが、どちらにしてもまひろさんの身体が心配なのには変わりありませんから。ここ何ヵ月かストレスや疲労で体重も落ちてるし、体調も万全ではなかったみたいですし。もともと生理不順ということも聞きました。だから私が付き添って病院に行きました」

情けない……。
自分の身体のことなのに、自分で説明できないなんて。

「それで……妊娠してるの?まひろ。どうだったのかちゃんと答えて、まひろ」

母が絞り出したようなか細い声で、私に訴えかけた。
心臓が丈夫ではない母に、こんなに心配かけて申し訳なく思う。
自己管理ができていなかったことが恥ずかしい。
自分さえ平気ならって軽く考えていたけど、結局こうして大事な家族に迷惑をかけてしまっている。

今度こそ、今度こそは私が自分でちゃんと答えなきゃ。
自分の言葉で。

心を落ち着けるために静かに深呼吸していると、主任の手が私の手を優しく撫でるように動いた。
包み込むようにしっかりと握っていてくれてた手を離されてしまうのかと思ったけど、今度は指を絡ませて恋人繋ぎになった。
主任の表情をこっそり窺ってみると『大丈夫だ』って言ってくれてる気がした。

そうだよね、大丈夫……。

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