real feel
「秘境渓谷でのことですか。シュウにぃに協力してたってことでしょ?」

BBQの道具を早く返さないといけないって、イチにぃにその役目を頼んでいた。
傍にいた私にも一緒に行ってほしいと。
その間に菜津美とシュウにぃが吊り橋を渡っているのを、佐伯主任に目撃させたんだよね。
あとで戻った私たちには、主任と菜津美が一緒に吊り橋を渡ってたって嘘ついた……そうだよね。

「本当にごめんなさい。まひろさんが吊り橋の方に向かった後、私が体調を崩してしまって。それに、BBQの前にも……」

前にも、何?

「もしかして、蘭事務所でのことかな」

菜津美が何かしら思い出したようだ。

「あの時、菜津美さんを呼びつけるような真似をしてごめんなさい」

呼びつける?
そんなことが、あったの?

「まひろは知らなかったと思うけど、美生さんから電話で蘭事務所への届け物を頼まれたことがあったの。蘭事務所へ行ったら、所長さん……まひろのお父さんとニアミスしそうになって、その時の慌てた美生さんがおかしかった!」

ちっとも意味が分からなかったけど、美生さんが経理宛に送った書類の中に蘭事務所の機密文書が紛れていたらしい。
それを蘭所長……つまり私の父にバレないように回収したいからと、菜津美に持って来てくれるように頼んだっていうこと。
そして、父に見つからないように隠れたり逃げたりしてたんだとか。
そのあと、たまたま別件で来ていた佐伯主任と一緒に車で会社に戻ったって……。

あの時だ。
私が代休をもらって、母とランチしたり公園で昔話したりした、あの日。
主任の車の助手席に座っている菜津美を確かに見た。

「それだけじゃない。菜津美さんのバッグのマスコットを勝手に外して佐伯さんの車の中に落としたりしたのも、私よ」

マスコット!!
あれはたまたま菜津美が落としたんだろうと思ってた。
イチにぃが言っていたシュウにぃのS作戦って、かなり手が込んでいたのね。

「菜津美さんが助手席に座らないといけないように仕向けるために後部座席にわざと大量のメロンを積んだりして……。本当に悪かったと反省してます」

< 132 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop