real feel
「夜の観覧車ってのも、いいもんだな」

「本当ですね、夜景が綺麗。……主任、今日は来てくれてありがとうございました。結構な賑やかさでしたよね」

「そうだな、あんな親戚同士の集まりって今まで行ったことなかったけど、いい雰囲気でみんな楽しんでたし良かった」

主任もそうだったかな。
楽しんでくれたのならいいけど。

「俺のことも、そこにいるのが当たり前みたいに受け入れてくれて嬉しかった。俺もう認められたと思っていいんだよな?まひろの婚約者だって」

まだ馴染まない『婚約者』って響き。
嬉しいのに、恥ずかしいような。

「大丈夫、もうとっくに認められてますよ。そうでないと、私だって……困ります」

観覧車の外を眺めながら、主任が呟いた。

「だいぶ上の方に来たな。まひろ、前にここに来たの覚えてるだろ?」

「覚えてますよ!忘れられるわけないじゃないですか」

だって初デートだったし、観覧車の中で……確か一番真上で……。
思い出してると恥ずかしくなってきていつの間にか俯き気味だった私の耳元で、主任が囁いた。

「まひろ、こっち向いて」

なんだかくすぐったくなるくらいの甘い囁きに、腰が砕けそうになった。

「こっち向いてくれないと……」

私の顔が主任の両手で包み込まれ、主任の方に向かせられた。

「……近いうちに、俺の実家に連れていくから。俺の母親に会ってくれるか?」

「…………はい。お願いします」

「じゃ、次は目を閉じて」

その言葉には従うしかない。
私だってさっきから待ってたんだから。
だけど、ちょっとだけ気になってしまったから、目を閉じた後で疑問を投げかけてみた。

「もし私が目を閉じなかったら、どうなるんですか」

「ん?俺の言う事を聞けないヤツには、特別な仕置きをしてやるだけだ」

「ええっ!それってどういうお仕置きで」

「ああもう煩いな、ムードぶち壊しだろ……黙れよ」

まだちょっと反論したかったけど、焦れたようなキスで声を奪われた。
きっと照れてたんだ主任。

私に『母親に会ってくれ』なんて、サラッと言ってくれたようでいて実は緊張しながら言ってくれたんじゃないかな?
実家に連れて行ってくれるって、主任からそんなこと言ってもらえるなんてやっぱり嬉しい。
実家って言えば、邦都市の"S・Factory"なんだよね。
ドキドキしてきちゃう……。

観覧車を降りるまでの間、私たちは何度も何度も甘く蕩けるようなキスを繰り返したのだった。

< 135 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop